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万葉集(第2巻)[114〜130] [超訳「万葉集」]

■但馬皇女(たじまのみこ)が高市皇子(たけちのみこ)の宮に滞在したとき、穂積皇子(ほづみのみこ)のことを思いだしてつくった歌[但馬皇女(?-708)は天武天皇と氷上大刀自(ひかみのおおとじ)の娘。氷上は藤原鎌足の娘。したがって藤原系の皇女ということになる。高市皇子(654-96)は天武天皇の第一皇子で、太政大臣を務めていた。その邸宅(宮)は香具山のふもとにあり、但馬皇女は小原(大原)の藤原邸を出て、長兄の屋敷で暮らしていたことになる。穂積皇子(?-715)は天武天皇の第5皇子で、その母は蘇我氏の出身。ハイティーンどうしだったと思われる兄妹の恋は、いつまでも緒を引く藤原・蘇我の暗闘もからんで、たちまち引き裂かれる。事件が起きたのは持統5年の691年とされる。5年前に大津皇子が反乱の疑いで死をたまわり、2年前に次期天皇と目されていた草壁皇子が病死し、のちに文武天皇となる草壁の皇子はまだ7歳で、宮廷は不安に包まれていた。そんななかでのラブアフェアである。おそらく持統天皇も叔父の藤原不比等も激怒したと思われる]
[114]
秋の田の稲穂が
風になびいています
そんなふうに心を傾けて
あなたに寄り添いたいのです
評判が立ってもかまわないわ

■みかど(持統天皇)に命じられ、穂積皇子が近江にある志賀の山寺(崇福寺)に出向いたとき、但馬皇女がつくった歌[大津の崇福寺は廃寺となり、いまは跡だけが残っている]
[115]
あとに残されて
恋に苦しむのはいや
追いかけていきます
だから分かれ道に
しるしをつけておいて
愛する人よ

■但馬皇女が高市皇子の宮に滞在したとき、ひそかに穂積皇子と会い、それが露見してつくった歌
[116]
人のうわさが多いので
とてもつらい
あなたは来ない
だから勇気をふるって
わたしが夜更け
あなたに会いにいきます
■舎人皇子(とねりのみこ)の歌[舎人皇子(676-735)は天武天皇の第6皇子で、母は新田部皇女(にいたべのみこ、天智天皇の娘)。『日本書紀』(720)の編纂責任者でもある。これは、かれが若いころ乳母の娘に恋をして、つくった歌と思われる]
[117]
大の男が
どうして片思いなんか
そう思うのだけれど
それでもこのダメ男は
恋に苦しんでいます

■舎人のおとめがそれに応えてつくった歌
[118]
そうお嘆きになりながら
恋してくださるからでしょうか
わたしの髪の
留め糸が濡れて
ほどけてしまいました

■弓削皇子が紀皇女(きのひめみこ)をしのんでつくった歌4首[弓削皇子は天武天皇の第9皇子、27歳で亡くなっている。紀皇女も天武天皇の娘だが、ふたりはどういう関係にあったのだろうか]
[119]
吉野川の
流れは早いので
淀むことがない
わたしたちも
そんなふうにいたいですね

[120]
自分の妹に
恋してなんかいずに
秋の萩のように
きれいに咲いて
散りたいものです

[121]
夕方になれば
潮が満ちてくる
その前に
住吉の朝鹿の浦で
玉藻を刈りたい
あなたといっしょに

[122]
船が港で揺れるように
ぼくの心もいつも揺れている
恋やつれかな
あなたのことを思って

■三方沙弥(みかたのさみ)が園臣生羽(そのおみいくは)の娘をめとって、それほどたたないうちに病に伏してつくった歌3首
[123]
束ねるには短く
束ねなければ長い
幼いあなたの髪
それをこのごろ
見ることができません
ひょっとしたらだれかが
その髪に
くしをいれてしまっているのでしょうか(沙弥)

[124]
人がみな
もう長いから
束ねなさいというのですが
あなたが見た髪です
乱れてもそのままにしています(娘)

[125]
橘の香りがする
あなたの髪を思い出します
わたしはどこに行くのでしょう
あれこれと考えてしまいます
あなたに会えないのが
とても悲しい(沙弥)

■石川のいらつめが大伴田主(おおとものたぬし)に贈った歌1首[大伴田主は安麻呂の二男で、旅人の弟。石川のいらつめは前出とは別人。しかし、同じく男を翻弄する絶世の美少女という趣がある。以下は、石川のいらつめがわざと老女のかっこうをして田主を誘惑し、邪険にされたことを題材にした滑稽歌]
[126]
みやびな人と
聞いておりましたのに
わたしを引きとめもせずに
お帰しになった
とんだイケメンさん

■大伴田主がこれに応えて贈った歌
[127]
わたしはみやびな男ですよ
引き留めもせず
お帰しした
それがイケメンというものです

■同じく石川のいらつめが大伴田主に贈り返した歌
[128]
ほんとうに
聞いたとおり
なよなよしていて
心配だわ
もう少し修業してね

■大津皇子の屋敷で女官をしていた石川のいらつめが大伴宿奈麿(おおとものすくなまろ)に贈った歌[この石川のいらつめの呼び名は山田。大伴宿奈麿は安麻呂の3男]
[129]
いい年をした
おばさんなのに
どうして
こんなに恋い焦がれてしまうの
まるで少女みたいね

■長皇子(ながのみこ、?-715)が弟の弓削皇子に与えた歌[長皇子は天武天皇の子、弓削皇子とは母が同じ]
[130]
丹生川の
浅瀬など選ばなくていい
そんなふうに
ますます恋しさのつのってくる
わが弟よ
こちらに通ってきなさい

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