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破裂した魔法の箱 [時事]

老前整理には間に合わなかったけれど、あとの者に迷惑をかけないように、最近、本棚の整理をはじめた。
本を捨てるもの、ブックオフに売るもの、残すものに分類し、残すものは著者別、ジャンル別に並べかえたりするのだけれど、ざっと整理してみると、けっきょく右から左に移しただけになっている。
床にはちらばった本や雑誌の山。地震のあとよりひどい状態だ。
ふと足もとに児玉房子写真集『CRITERA(クライテリア)』が転がっているのを見つけ、ぱらぱらとめくっているうちに慄然とした。
クライテリアというのは、〈システムを保つための不可欠の要素〉という意味らしい。とはいえクリティークやクライシスということばも連想させ、どこかあやうげな均衡を感じさせる。
この本はそもそも無機質な先端科学技術からなる現場や建物を、ロマンを交えず、淡々と、しかしあますところなく写しとった1990年発行の写真集だ。
そこに福島原子力発電所の写真が何ページにもわたって掲示、いや啓示されている。
今度、事故を起こした第1原発ではなく、第2原発だ。とはいえ、第1原発の様子もさほど変わらないのではないか。
タービン冷却用海水放水口からは、原発の力を見せつけるように勢いよく水が青い海に流れだしている。
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1号炉から4号炉まで並んだ原子炉建屋はおそろしいほど静まりかえっているようにみえ、ここから合計440万キロワットもの電力が日々生みだされているとはとても思えない。
資料092.jpg
原子炉建屋とタービン建屋のあいだは複雑に配管が入り組み、これを通って魔法のように謎のエネルギーがひっきりなしに送りこまれているさまを想像すると、それは宮崎駿が『千と千尋の神隠し』で描いた釜爺の動かすボイラーのようでもある。
資料091.jpg
無人の中央制御室には何かの書類が置かれたままになっているが、ここを動かしているのは、実は幽霊ではないかと思わせるほど無気味だ。
資料093.jpg
この本に解説を寄せている村上陽一郎は「もし100年前の人間を突然今の社会に放り込んだとしたら、恐らくは魔術の世界にいるとしか思うまい」と書いている。
なぜ人はみずからの身の丈を超えて、より速く、より高く、より遠く、より美しく、より旨くをめざすのだろう。何につけ、もっと、もっとを求めるのだろう。
その先にはいったい何が待っているのだろう。よくわからない。
それは滅亡に向けての疾走なのか。それとも百万ボルトの光芒に照らされたニヒリズムなのか。
この写真集をみながら、そんなことを茫々と考えている。

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