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『鬼龍院花子の生涯』を見る [映画]

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1982年に公開されたこの映画、夏目雅子の「なめたらいかんぜよ!」のせりふで大ヒットしたのだけれど、そのころぼくは仕事が忙しく、とうとう見る機会を逸してしまいました。ひと昔前の学生時代とちがって、家庭をもっていたので、映画館に足を運ぶ機会は減っていました(この年、見たのはスピルバーグの『ET』くらいですかね。娘たちもいっしょだったかも)。
この映画、テレビでも放映されたことがあるようですが、つれあいがヤクザ映画はきらいなので、見そびれました。で、今回、駅前の店でたまたまレンタルDVDをみつけ、はじめて見たというわけです。
仲代達也の鬼龍院政五郎(鬼政)迫力がありましたね。ちょっとまちがうと、大げさすぎて滑稽になってしまうところを、少し抑え気味にして、それでもすごみを出すというぎりぎりの線をうまく演じていました。
ちょっと見て思ったのは、この映画、典型的なヤクザ映画なので、普通ならとてもテレビで放映できる代物ではありません。公序良俗に反しますからね。
実際、高倉健の「網走番外地」シリーズや、藤純子の「緋牡丹博徒」シリーズ、菅原文太の「仁義なき戦い」シリーズ、その他日活ロマンポルノの傑作がテレビに登場することはなかったし、これからもまずないでしょう。これがテレビで放映できたのは、ひとえに夏目雅子追悼という名目が立ったからです。あのとき、夏目雅子の迫真のヌードシーンはノーカットで流れたんでしょうか。
ところで、今回はじめて映画を見て、気づいたのですが、鬼龍院花子が夏目雅子かと思っていたら、そうではなかったんですね。花子は鬼政が年を取ってからはじめてもうけた実子で、脇役です。
夏目雅子の役は、12歳のときに鬼政にもらわれた養女の松恵で、養女に出て、すぐに鬼政の妾に実子、花子が生まれたというわけです。でも原作でも映画でも、主役はこの花子ではなく、松恵になっています。松恵の眼を通してみた鬼龍院一家の興亡というのが、本と映画に共通するテーマでしょうか。
「なめたらいかんぜよ!」のせりふは意外なところに出てきます。
女学校を出た松恵(夏目雅子)は鬼龍院の家を出て、教師の田辺(山本圭)といっしょになるのですが、その田辺も敵方のヤクザにかどわかされようとした花子を助けようとして、そのあとを追いかけ、殺されてしまうのです(このあたり、原作とちがって、実に安直ですが)。
葬儀のため、徳島にある田辺の実家を訪れた松恵は、田辺の遺骨をわけてほしいと懇願します。しかし、その父親(小沢栄太郎)からヤクザの娘なんかには渡せんと、さんざんいやみを言われたすえに、とうとう堪忍袋の緒が切れて、こう言い放つのです。
「あては高知九反田の侠客、鬼龍院政五郎の、鬼政の娘じゃけ、なめたら、なめたらいかんぜよ」
このせりふをいうときの夏目雅子は、凜としていましたが、すごみがあるというより、とても悲しそうな目をしているのが印象的でした。
『鬼龍院花子の生涯』という映画は、ヤクザ映画のおなじみのパターンを踏襲しながら、男っぽい鬼政の義侠と、一見おとなしそうな松恵の度胸を押し出そうとして、ストーリーとしては完全に破綻しています。そのことは宮尾登美子の原作『鬼龍院花子の生涯』が、みごとな構成をもっているのと対照的です。
原作には、もちろん「なめたらいかんぜよ」のせりふはありません。でも、このせりふがあって、夏目雅子が引き立ったことはたしかです。
ヤクザの組どうしが対立にいたる経緯も、映画はあまりにも単純ですが、原作ではなるほどと納得できます。相撲の地方興行の利権をめぐる組どうしの争い、広沢虎造の浪曲興業では山口組と吉本興業が手を組むのですが、それに反発する別の組が山口組2代目を殺そうとします。2代目が殺されようとするところを、花子の夫が阻止しようとして、命を落とすわけですね。どれも、いまにつながっているように思える話です。
映画は典型的な任侠ものといってよいでしょうが、原作のねらいはまるでちがいます。侠客の家に生まれ、育ち、そこにかかわった女たちが、いかにつらい目に遭いながらも、がまんして(あるいは流れるままに)生き、そして時にあっけなく死んでいったかという話です。
それでも、この映画は夏目雅子のための映画だったといってよいでしょう。いまから見ると、仲代達也の迫真の演技も、どこかうそっぽいですね。夏目雅子という女優さんは、見かけの可憐さとはちがい、自分とは少し離れたところ(らしからぬ役どころ)に駆け上がるようにして演技をします。吉永小百合は何をやっても吉永小百合なのに、夏目雅子は役にはいると、もう夏目雅子とは別のどこかはらはらさせる存在に変わっています。
テレビの「西遊記」で、三蔵法師を演じたのが21歳のとき、そしてこの『鬼龍院花子の生涯』が25歳のとき、『時代屋の女房』『魚影の群れ』が26歳のとき、そして27歳のときの『瀬戸内少年野球団』が映画としては最後の作品となりました。
忘れがたい女優さんです。

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