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『資本の〈謎〉』を読む(2) [商品世界論ノート]

マルクス経済学の特徴は、資本を経済権力としてとらえることである。資本は単に商品を生産し、流通させる機能をもつだけではないのだ。こうした把握は、しかし、両刃(もろは)の剣ともなりやすい。資本権力を否定することが、資本のほんらいの機能自体を奪うことになりかねないのだ。そのあたりの事情に無頓着だったスターリン=毛沢東型社会主義が、あまりに多くの惨劇を生んだことを、いまでは歴史の教訓として踏まえておかねばならないだろう。
第2章「どのように資本は集められるか」を読んでみる。
「資本はモノではなく、貨幣がより多くの貨幣を求めて永続的に循環する一個の過程である」と著者は書いている。資本は貨幣の循環(蓄積)運動ととらえられ、その背後には資本を動かしている人がいるとされる。金融資本家、産業資本家、地主、不労所得者など、あるいは国家そのものが資本にかかわっている。
資本主義が本格化するのは18世紀後半からだ。このころから産業資本の形態で、資本家は生産手段と労働力を集めて商品をつくり、それを市場で売って利潤を稼ぐようになった。それは1回きりで終わるのではなく、可能なかぎり拡大再生産するかたちで繰り返されていった。資本家がおそれるのは、その循環が途切れることである。そうなれば資本に損失がもたらされる。
そこで求められるのはひとつにイノベーションによる生産過程のスピードアップである。原料などの生産手段や労働力も確保されなければならない。商品はすばやく市場に運ばれ、そこで得られた収入は確実に回収されなければならない。資本主義は常にスピードアップと空間的バリアの突破をめざしてきたと著者は述べている。
また資本には「競争の強制法則」がはたらくという。資本家でありつづけるためには、資本を再投資しつづけねばならない。貯めようと思えば、貨幣はいくらでも貯めることができる。おカネへの欲望は、はてしないものだ。20世紀において、国家はその欲望を累進課税や相続税によって、ある程度抑えてきた。ところが1980年ごろから、新自由主義の風潮が高まり、より裕福なものがより裕福になるのはとうぜんとみなされるようになった。
しかし、投資に限界はないのだろうか。著者はここで「資本過剰吸収問題」なるものをもちだす。過剰に蓄積された資本は吸収しきれず、自己破壊、いいかえれば全般的恐慌をもたらすのではないか。つまり投資が回収されず、資本が減価してしまうのだ。こうして資本は自己破壊──シュンペーターにいわせれば「創造的破壊」──を繰り返しながら、生き延び、再編成されてきたのである。
著者はスペインによるインカ略奪に象徴されるように、資本主義にはもともと暴力的な性格があったと述べている。だが、それが本格化するのはやはり18世紀後半以降のことだ。このころから国家と金融とが結合し、「国家−金融結合体(ネクサス)」なるものができあがったと著者は指摘する。
つまり信用制度がととのえられ、中央銀行や株式市場が生まれ、国家が積極的に経済発展を後押しする体制がつくられたのだ。「世界市場を横断して資本が自由に流通することに対する潜在的閉塞を克服すること」が国家に求められるようになった。
資本が自由に流通するためには、国家間ルールが必要であり、そのためには国際的な諸機関が求められてくる。それが、たとえば世界銀行や国際通貨基金(IMF)、あるいは経済協力開発機構(OECD[現在は世界貿易機関(WTO)])だった。
著者は国家と一体となった金融機関の発達を、現代資本主義の最大の特徴ととらえているようだ。しかし、無制約の金融が暴走すると、深刻な恐慌をもたらす可能性がある。それが今回の金融恐慌を招いたひとつの要因でもあった。にもかかわらず、金融権力にたいする規制は、まだじゅうぶんになされていないように思える。世界はけっきょく「[プロレタリア独裁によってではなく]世界各国の中央銀行の独裁によって支配されてしまう」のではないか、と著者はきつい皮肉をとばしている。
〈1980年代半ば以降にアメリカで起きたように、金融機関が他の全部門を支配し、規制されるべき人物が国家の規制機関を握るならば、「国家−金融結合体」は政治体全体の利益ではなく特定の利益集団を利することになりがちである。この場合、持続するポピュリスト的な憤激はバランスを回復する上で本質的に重要なものとなる〉
国と金融機関の動きに警戒を怠るなというのは、今回の金融恐慌から得られた大きな教訓のひとつかもしれない。
コメントは後回しにして、とりあえず先に進むことにする。

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