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アベノミクスの罠 [時事]

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アベノミクスについて、ふたたび考えてみます。
このところ、いっときの急激な円安、株高は一服した感はありますが、それでも昨年末にくらべると、日本の景気はずっとよくなっているようにみえます。
これから、ものが売れるようになり、物価もそこそこに収まって、経済が活発になって、企業の業績がよくなり、設備投資も増え、実質賃金も上昇すれば、それに越したことはありません。
しかし、はたしてそううまく行くものでしょうか。
『金融緩和の罠』(集英社新書)という本を、ぱらぱらめくってみました。この本は気鋭の政治学者、萱野稔人氏が3人のエコノミストと学者に、金融緩和政策の効果についてインタビューするというもので、きょう読んだのはBNPパリバ証券のチーフエコノミスト、河野龍太郎氏との対話です。
この本で印象的なのは、河野氏が政府に経済成長率を高める能力はなく、「財政政策は所得の前借りであり、金融政策は需要の前倒しである」と語っているところです。いまのところアベノミクスは大成功とみえても、そのうちツケが回ってくるというわけです。
それがどういうツケなのかを知る前に、そもそも日本経済の現状を河野氏がどうみているかを知っておく必要があります。
つづめていうと、日本においては1990年以降、生産年齢人口が減少し、そのことが個人消費の落ちこみだけではなく、設備投資の減少も招いているというのが河野氏の理解です。それによって、経済全体の需要が減り、デフレがつづいているというわけです。
こういう経済に対し、金融緩和で景気浮揚をはかろうとすると、(1)金融機関のマネーは国債に回って融資につながらず、(2)国債の追加発行に歯止めがきかなくなり、(3)社会保障制度や産業構造の改革がおろそかになり、(4)国の借金がとめどなく膨らみ、(5)土地や株価、原油、食料などのバブルを引き起こし、(6)最終的に国債価格の暴落と金融システムの不安定化、バブル崩壊を招くことになる、というのがその見立てだと思われます。
これは最悪のシナリオかもしれません。点火したロケットが上昇して、うまく軌道に乗らず、途中で空中分解してしまうという感じですね。前に紹介した高橋洋一氏の楽観的な見方と対極にあるといってもいいでしょう。
この先どうなるか、ぼくにはさっぱりわかりません。高橋氏と河野氏、どちらがあたっているのか、自信をもって答えられそうにありません。どちらもあたっているような、あたっていないような、というのがホンネです。
われわれ年金生活者にとっては、インフレは困ります。しかし黒田日銀総裁は2015年度には物価上昇率をほぼ2%にすると自信たっぷりに断言しています。これは消費税アップによる上昇率を除いた数字ですから、2015年度には物価は実際には現在と比べて5%程度上がることになるでしょう。これに対し、年金は上がらないでしょうから、生活は多少苦しくなり、とうぜん貯金をいま以上に取り崩していくということになります。ですからインフレといっても、おカネをどしどし使うというより、高齢者のあいだでは、むしろ節約モードが強まるのではないでしょうか。
参院選が終われば、社会保障制度の見直しが予定されているのも、不安材料です。これから年金が減ることは予想されても、増えることは考えられません。さらに老人ホームの費用が月50万円かかるなどと聞くと、はてさてどうしたものかと財布のヒモがますますきつくなります。年寄りが貯金をもっているといっても、それはいつまで生きるか、先が見通せないからです。せめて寝たきりにならないよう、からだを鍛えておこうというのがせいぜいの対策で、するとまた長生きするので、またおカネがかかると、笑えるような笑えないような悪循環がつづきます。こんな調子では、いずれにしても年寄りに日本経済復活のカギは見いだせそうにありませんね。
将来が不安なのは若い人たちも同じです。非正規雇用の割合が増えて、賃金格差が生じているのにくわえて、企業は利潤を確保するために、ますます人件費抑制に走っています。雇用者の年間平均賃金は1997年以降、下がるいっぽうです。安倍政権は2%のインフレ目標を唱えますが、問題はそれ以上にはたして実質賃金が上昇するかどうかということです。いや、消費増税を考えれば、5%以上の実質賃金上昇がなければ、生活水準は上昇せず、それがとても実現できそうにないとすれば、消費増税直前の駆け込み需要は別として、若い人たちの消費もあまり伸びないのではないでしょうか。いま百貨店などの消費が伸びているのは、いきなり株が上がってプチバブルにわいている小金持ちがものを買っているにすぎないのではないでしょうか。その反動もまた予想できます。
ものがあふれ、おカネがだぶつくなかで、多くの人はそこそこの満足を得ながら、将来に大きな不安をいだいています。人為的な貨幣価値の切り下げによって、円安株高になったのは、いわば最初のばくちに勝ったようなもので、喜んでいる人が多いでしょうが、しばらくして、その反動がどうめぐってくるか、わかったものではありません。
いずれにせよ、おカネのことばかり考えているのは、からだによくありません。そんなことより、くらしや仕事、町づくり、くにづくり、歴史や世界、宇宙に夢をはせたほうがいいに決まっています。いま日本人に欠けているのは、「幸福」より「夢」かもしれませんね。ふと、そんなことを思いました。

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ちゃよ

はじめまして。初めて訪問させて頂きます。気になって、思わず記事を読ませて頂きました。

私もアベノミクスが果たして成功なのか?これからどうなるのか?不安でいっぱいです。

震災復興支援の増税と言いながら、実質復興支援とは違う予算にお金は使われるし、相変わらず財政の無駄はあるし‥。そんな中で消費税増税だけは決まっている。政府をどうしても信頼できないです。

うまくアベノミクスが回ることを祈るばかりです!
by ちゃよ (2013-06-04 18:18) 

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