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富の相続、タックス・ヘイヴンなど──ピケティ『21世紀の資本』を読む(8) [本]

 かつて資本(資産)といえば、おもに農地だったが、いまはそれが産業資本、金融資本(資産)、不動産資本(資産)に変わった、とピケティは書いています。また富の集中が1世紀前ほど極端ではなく、世襲中流階級が富の4分の1から3分の1を所有するようになったことも現在の特徴です。
 富の相続がここでのテーマです。富が貯蓄によって蓄積されるのはいうまでもないことです。しかし、これからは貯蓄よりも相続の役割が大きくなるかもしれない。それによって過去に生みだされた格差が、そのまま継承されていくようになるのではないか、と著者は懸念します。そのしわよせは、ほとんど資産をもたない低賃金労働者に押しつけられます。
 著者によると、19世紀のフランスでは、年間所得のうち相続所得分が20-25%を占めていたといいます。それが1910-1950年には4、5%まで激減します。ところが、1980年以降また増えるようになって、2010年には15%程度まで回復しているといいます。資産のなかに、相続資産が占める割合がまた大きくなりつつあるのです。
 相続には遺産だけでなく、生前贈与も含めるべきでしょう。第2次世界大戦後には、相続はもはや富に大きな影響をもたらさなくなると思われていました。平均余命の延びが、相続財産を減らしていくと考えられていたのです。しかし、そうではなかったのです。
 19世紀の平均相続年齢は30歳前後でしたが、21世紀はじめには50歳前後になっています。
 著者はこう書いています。

〈寿命の延びは、重要なライフイベントを遅らせる。人々はもっと長く勉強し、就職が遅れ、相続も遅れ、退職も遅くなって、死ぬのも遅れる。だが相続財産の相対的重要性は、労働所得とはちがって必ずしも変化しないか、少なくとも人々が思っているよりはずっと変化が少ない〉

 人は高齢になっても、財産を減らそうとしません。相続では、一族の財産を存続させたいという動機がはたらくようです。この数十年、不動産投資をよそおう、子のための実質的な生前贈与が増えています。子が50歳以上になってからではなく、35-40歳くらいに富を分配しておこうという親が増えているためです。ですから、相続を分析する場合に、いまでは実質的な生前贈与の分を考慮にいれないわけにはいかない、と著者はいいます。
 現在の特徴は、高齢者の富裕化と、老後の貧困が共存していることです。20世紀の恐慌と戦争は、富を崩壊させましたが、その後、資本主義は復興し、寿命の延びとともに、高齢者の富裕化が進みました。少子高齢化社会では、子が相続する時期は遅くなるにしても、相続額は大きくなり、富のおける相続財産の重要性は、かつてと変わらない、と著者は述べています。
 著者は民間財産に占める相続財産の割合を、フランスのデータで示しています。それによると、20世紀はじめには、その割合は90%で、それが次第に減って1970年代には40%台に下落し、2010年には70%弱にまで回復したことが示されています。民間財産の大半が相続財産であるというのは、とうぜんかもしれませんが、ちょっと驚きです。
 そして、現在フランスでは、世帯の可処分所得のうち、約2割が相続(と贈与)によって占められているというのです。つまり世帯財源の2割が相続財産にもとづく所得(家賃や配当、利子など)から成り立っていることになります。
 総所得が労働所得と資本(資産)所得を合わせたもので、しかも資産の大半が相続財産だとすれば、相続財産を手に入れた者は、勉学と労働によって自分の道を切り開かねばならない者にくらべて、ずっとよい暮らしができる、と著者はいいます。
 将来はどういう世界になるのでしょう。「それは、[なんの根拠もなく]能力や生産性という観点から正当化されたすさまじい賃金格差と、相続財産の非常に大きな格差との両方が存在する世界」になるのではないか、と著者は懸念します。こうした相続財産の復活は、フランスだけにかぎりません。イギリスやドイツ、さらには米国、日本でも顕著にみられるようになるだろう、と著者は述べています。
 21世紀に世界の富の格差はどうなっていくのでしょう。
 経済成長率が低い場合は、資本収益率が不均等になり、より多くの富をもつ者が、より多くの分配を得るというのが、著者のセオリーです。
 実際、「1980年代以来、世界の富は平均して所得より少し速めに増加しており、最大の富は平均資産より急速に増加している」ようです。これは世界でも経済格差が拡大していることを示しています。
 富はますます一部に集中しています。現在は「トップ千分位が世界の富の約20%、トップ百分位が約50%、トップ十分位がおよそ80-90%を所有しているらしい」というのですから、これはおどろき以外のなにものでもありません。
 ひとたび築かれた財産は、資本の動学にしたがって増加していく、と著者はいいます。もちろん、財産のなかには相続財産も含まれています。雑誌「フォーブス」に登場する億万長者をみると、純起業家は3分の1にすぎず、残りの3分の2は、純相続人と半相続人だといいます。ですから、起業家や経営者が稼いでいるというだけでは、富の格差のすべてを説明できない、と著者はいいます。
 さらにいえば、起業家の稼ぎ自体もはたして当然の報酬といえるのかどうかも疑問です。「大まかにいうと、資本収益はしばしば、本当に起業家的な労働、まったくの運、そして明白な窃盗の要素を分かちがたく結びつけたものだというのが実情だ」とさえ、著者は述べています。
 あとは格差問題についての補足です。
 インフレと資本収益の関係について、著者は、インフレは資本収益を減らすわけではないといいます。資産価格はだいたい消費者物価と同じ速度で上昇するからです。インフレには不労所得生活者の資産評価を下げるという側面もありますが、富裕者はこれにたいする対抗措置をとることもできます。実物資産(不動産や株)に投資すればいいわけです。これは不労所得生活者だけにいえることではなく、相続財産と高給者にもいえることです。かれらは不動産や株にたいし、不平等なアクセス権をもっています。
 インフレの影響について、著者はこうまとめています。

〈インフレの主な影響は、資本の平均収益を減らすことではなく、それを再分配することなのだ。そしてインフレの影響は複雑で多次元的だが、圧倒的多数の証拠が示している通り、インフレが招く再分配は、主に最も裕福でない人には不利益に、最も裕福な人には利益になる。よって一般に望ましい方向とは正反対と言える〉

 インフレには富の格差を減らす効果はない、というのが著者の判断です。むしろ、インフレは貧困者を直撃し、富裕者をより富裕にします。
 著者は、政府系ファンドについてもふれています。
 サウジアラビアのファンドは、主に米国の国債に投資されています。収益面でみると利率は2、3%と低いのですが、これにはむしろ政治的、軍事的側面が強いようです。
 2013年時点で、世界の政府系ファンドは産油国、非産油国をあわせて5.3兆ドルで、これは「フォーブス」の億万長者たちの総資産額に匹敵します。億万長者たちは世界の富の1.5%を所有しているといわれますが、政府系ファンドも同じくらいあるわけですね。
 3.2兆ドルある産油国の政府系ファンドが、今後、欧米諸国の資産にさらに大きな影響をもつことはまちがいないだろう、と著者は述べています。「石油レントによって、産油国は世界の他の地域を買い占めて、蓄積資本のレントで生活できるようになる」ことも考えられるといいます。
 現在、世界の資本(資産)は、アジア、ヨーロッパ、アメリカが、それぞれ3分の1を占めるようになっているようです。1950年段階では、アジアの占める割合は5分の1ほどでした。21世紀末には、世界の資本の半分をアジアが占めるようになるだろうとの予測もでています。
 アジア地域の急進は、中国が躍進していることが大きな要因です。最近、欧米諸国には、自国の資産が中国に奪われてしまうのではないかという恐怖さえあるようです。しかし、それは幻想にすぎない、と著者は断言しています。中国はまだ貧しく、海外に投資できる資産もさほど大きくないのが現実だというのです。
 最後に著者が強調するのは、世界の金融資産のかなりの部分がタックス・ヘイヴンに隠されているということです。ある推測によると、その金額は世界のGDPのおよそ10%(7兆ドル、あるいはそれ以上)にのぼるといいます。富裕国の最も裕福な住民が、資産の一部をタックス・ヘイヴン(租税回避地)に隠しているとすれば、これもまた大問題というべきでしょう。
 こうした広がる格差に、どう対応すればいいのか。それが次の課題となります。

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