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政府と議会に関するメモ──滝村隆一『国家論大綱』を読む(12) [本]

 ふたたび『国家論大綱』に戻ってきた。
 この2100ページもある未完の(しかも難解な)大著を、はたしてどこまで読めるのか、はなはだ心もとない。いまのところ読み終わったのは、やっと3分の1ほどである。しかし、何とか読み切りたいと思っている(ただし、ややこしい学説については省略)。以下は例によって簡単な要約。
 今回、取りあげるのは、政府と議会についてである。
 専制的形態をとる国家権力から議会が分化していくまでには、長い歴史的な闘いを要した、と著者は書いている。政府と議会が分離され、一般に政府が統治権力を、議会が行政権力を代表するようになるのは、その結果である。といっても、それは政府が行政とは無関係で、議会が統治と無関係だということではない。
 政府の行政活動が進展するのは、歴史的にみれば、ずっとあとになってからである。著者は、統治に関する政府機関を外務・国防・通商などの外政部門と、内務・法務・財政などの内政部門にわけている。いっぽう、行政にかかわるのは、農政・産業・建設・郵政・運輸・福祉・文教などの部門である。
 民主主義が未発達の段階においては、政府内ではとりわけ内務省が大きな権力を握っている。国防省が軍隊を統率するのにたいし、内務省は警察を掌握している。とりわけ治安警察が大きな権限を有している国は、専制の度合いが強く、逆にそうでない国は民主化が進んでいる、と著者は指摘する。
 軍が外的国家(戦争)にかかわるとすれば、警察は内的国家(治安)にかかわっている。加えて、国防や治安に関する動きを察知するために、情報・諜報機関がもうけられる。その行動はしばしば人権の無視・圧殺をもたらす。
 議会(国会)では「国民から選出された政治的代表が一堂に会して、〈法律〉形態をとった国家意志の裁可・決定をおこなう」。そのため、議会は国家にたいしては国民を代表し、国民にたいしては国家を表示する二重の性格を有することになる。
 議会は一般に二院制の形態をとるが、それは歴史上生みだされたものである。第一院(上院)は貴族院、ないし参議院であり、第二院(下院)は衆議院、ないし庶民院である。歴史上、最初に登場したのは、王の直属機関としての封臣会議であり、それが身分制議会へと転身していった。これにたいし、第二院の発生は遅く、封建制の解体にともなって、下級貴族や市民階層が台頭した結果だったといってよい。
 そのため、議会においては第一院が統治に関する責任を担い、第二院が行政に関する意志決定をおこなうようになった。だが、大衆化の進展とともに「第一院として出発した貴族院(ないし参議院)が、第二院の衆議院(ないし庶民院)によって、その実権を徐々に剥奪され、完全に形骸化されて」いく。
 立法機関たる議会は、議長、副議長、理事会によって指揮される。議会における意志決定は、形式上、最高機関である本会議でなされるが、実際の審議は委員会(常任委員会と特別委員会)でおこなわれる。国家の諸活動が拡大するにつれて、議会での立法活動が飛躍的に増大したためである。
 近代以降の国民国家においては、三権分立にもとづいて、政府、議会、裁判所はそれぞれが独立した機関となっている。政治的民主主義を前提とすれば、その一般的政治形態は大統領=共和制をとるほかはない、と著者はいう。
 これにたいし、イギリスを典型とする議院内閣制は、特異な形態といわねばならない。イギリスでは、総選挙で第1党となった党首が、自動的に首相となる(この点は、連立政権が誕生する日本と異なる)。問題は、議会と政府が融合していることで、そのため議院内閣制においては、実質的に三権分立制が否定されている。
 著者は、歴史的にみて、国家は近代にいたるまで、何よりも統治権力であり、行政活動はごくかぎられていたと指摘している。議会制民主主義が定着するのは、国家における行政的要素が拡大するにつれてである。
 だが、議会制民主主義が全面的に発展した国においても、統治活動がなくなるわけではない。そのため、政府はとりわけ統治権に関する問題については、意志決定を一元的に集中化せざるをえない。行政と立法とが完全に分離された大統領制のもとでは、そうした傾向が強まる。
 著者は議会制民主主義と政党との関係についても論じている。立法機関としての議会は、国民諸層の意志を、法律というかたちで国家意志に転成させる役割を担う。
 近代民主政治は、政党政治のかたちで展開される。国会議員は各地域社会から選出された地方代表である。だが、地方といっても、そこには国民社会としての一般性も含まれている。そのため地方代表といっても、そこには国民代表としての一般性が含まれている。議員が地方的利害を代表するだけではなく、国家的利害を代表するのはそのためだ、と著者はいう。
 ここで念のためにつけ加えると、地方的利害とは、中央からの財政上・税制上の保護・援助を指し、さらには公共土木事業や大企業誘致なども含まれる。そのため、各地方は議員に地方と中央との政治的パイプ役を期待することになる。
 いっぽう、国家的利害とは、国民社会全体の維持・発展にかかわる事象で、外交、治安、文教、経済、社会政策などを指す。ここでは、個々の議員は、地方的利害にとどまらず、国家的利害をも担うことになる。
 こうした地方的利害と国家的利害は、迅速に法律や政策に転化されねばならない。その意味で、議会は「統治・行政的意志決定機関」だということができる。
 とはいえ、個々の議員がばらばらに集まって、さまざまなテーマについて国家意志を確定していては、たいへんな手間と時間がかかる。そのため、議員たちがあらかじめ政治意志の共通性において大きく結集するほうが好都合である。政党が必要になるのはそのためだ。
 政党は経済・社会政策、および根本的政治理念を提示することによって議員の組織的結集をはかる。とりわけ、政治理念と基本政策、言い換えれば綱領が、政党の柱をかたちづくる。
 近代国民国家においては、国家の現状を肯定するか否かによって、政党が少なくとも二つに分かれる。つまり、支配階級に有利な政策を進めるか、それとも被支配階級に有利な政策を進めるかによって、政党は分立するといってよい。ただし、議会制民主主義=資本主義経済を否定する政党がめざすのは、プロレタリア独裁=社会主義経済や、一党独裁=コーポラティズムであり、いずれにせよ全体主義の方向である。
 二大政党制が登場しやすいのは、小選挙区制が採用される場合である。これにたいし、比例代表制は、多党乱立状態を生みやすい。小選挙区制のもとでは死票が多く生まれ、民意を反映するという面では、小選挙区制は不完全なものである。しかし、比例代表制のもとでは深刻な政治的混乱が発生する恐れもある。
 いっぽう著者は、外政に重点をおき統治を重視するか、それとも内政に重点をおき行政を重視するかによっても、政党の性格がことなってくると指摘する。
 二大政党による政権交替には意味がある。ある政党が国家の威信と栄光を求めて、政権を運営しても、それによって実益を得るのが一部支配層であるとわかったとしよう。そのとき、犠牲を強いられた国民が疲弊しきった内政に大がかりな行政的てこいれを求めて、別の政党を支持することは大いにありうることである。そして、さらに「内政面での建て直しが完了すれば、また統治党による本格的な外政が展開される」。こうして、二大政党による政権交替が現実のものとなるのだ。
 戦後の特徴は、実質的な社会民主主義政党が(労働党や社会党と名乗っているとしても)、二大政党の一翼を担うようになるまで成長したことだ、と著者はいう。社会民主主義政党は、革命政党ではないが、議会政党である。力強い外交政策は展開できないにせよ、社会民主主義政党は、社会政策を積極的に展開する。政権担当能力をもった、責任政党としての「社会民主党」が、内政を中心とした行政政党として登場したことを、著者はそれなりに評価している。
 加えて、近年の特徴は、マスメディアを媒介とした世論が、政治に大きな影響を与えていることである。「マスメディアは、ときどきの社会的・経済的・政治的権力に対する〈人民の護民官〉ならぬ、国民の側からの監察官であり、国民の抵抗権の代弁と組織化を担う、思想的・観念的権力である」と、著者は論じる。
 とりわけ重要なのはマスメディアにおいて、国民の政治的意志や感情が政治的世論として形成されることである。とりわけテレビや新聞は大きな役割を果たす。それを規制しようとする動きもとうぜん生じるが、メディアを完全に規制できるのはファシズムや社会主義などの専制国家だけだ。
 政治家が世論を無視できないのは、世論が選挙に影響を与えるからである。しかし、いっぽうでマスメディアはみずから積極的に政治的意志を発することはない。それはあくまでも受け身の存在である。したがって、「世論を実質主導し、世論によって大きく支えられた政府は万能である」と、著者は述べる。
 テレビの登場はまた、政治家のイメージを大衆に浸透させる役割を果たしている。そのため政治家はテレビを前に、大衆に好感度をもたれるよう演技するよう求められる。著者は「知名度の高いメディア・スターやとくにテレビ・タレントは、日々選挙運動をしているようなものであるから、有権者が直接間接に選出する政治家としての各級議員や行政首長へと転じやすい」とも述べている。これもまた現代政治の特徴なのかもしれない。

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