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野口悠紀雄『日本経済入門』をめぐって(3) [時事]

 これまでみてきたように、日本経済はさまざまな問題をかかえている。なかでも深刻なのが高齢化問題と財政問題だ。
 きょうは、そのあたりを実際の数字でみていくことにする。
(8)高齢化問題
 高齢化にともない、医療介護制度が大きな問題になってきた。
 日本の健康保険制度は、社会保険(職域保険)と国民保険(地域保健)、後期高齢者医療制度の3本立てから成り立っている。
 2012年の日本の医療費の総額は40.8兆円。その負担割合は公費(国と地方)が15.9兆円、保険料が19.9兆円、患者の自己負担が4.8兆円となっている。
 GDPにたいする医療費の割合は2012年度で8.33%。その割合は1988年度の2倍になっている。高齢化にともなって、医療費が増加している。
 これに2012年の介護費8.9兆円を加えると、医療費・介護費は、すでにGDPの10%を超えている。
 著者は高齢者の自己負担率が低すぎることを指摘する。20歳から60歳までは医療費にくらべ、保険料と自己負担額のほうが多い。これにたいし、60歳を越えるとその関係が逆転し、年齢を重ねるとともに、保険料と自己負担額にたいし、医療費が圧倒的に多くなっていく。
 いま1人あたり年間医療費は、70歳を越えると60万円を超え、90歳を越えると100万円を超えるとされている。これにたいし、高齢者の保険料と自己負担額は低すぎる、と著者はいう。
 さらに65歳以上では5人に1人が要支援・要介護になっている。その保険給付額は2014年度で8.9兆円。そのうち半分が被保険者の保険料、残りの半分が公費で支払われている。その総額は今後、増大するとみられている。
 医療費と介護費のGDP比率は2025年度には13%近くになると予測されている。
 われわれ高齢者にとっては、つらい数字だ。
 これに加えて深刻なのが、年金問題だ。
 詳しい説明ははぶくが、著者はこのまま行けば、政府の説明とは異なり、2030年ごろに日本の年金制度は破綻すると断言する。
 これを避けるには、ふたつの方式が考えられるという。
 ひとつはマクロ経済スライドを強行し、経済指標にかかわらず毎年給付を0.9%減らしていくこと。それによって26年間で、年金の実質給付額を20%カットすることができる。
 もうひとつは年金支給開始年齢を徐々に70歳に引き上げること。こうした改革ができなければ、よほどの経済成長が見込めないかぎり、おそらく日本の年金制度は破綻するという厳しい見方を著者は示している。
 これも、われわれ高齢者にとってはつらい話だ。
 日本の財政も深刻な状況に置かれている。
 2016年の国の一般会計予算は、96.7兆円。そのうち33.1%が社会保障費にあてられている。社会保障費は1990年にくらべて、約3倍の32兆円となっている。
 1990年ごろから、税収は増えていない。予算のうち約3分の1を公債に依存するかたちとなっている。
 日本の財政は「債務残高がGDPの2倍を超えるなど、主要先進国と比較して最悪の状況」にある。
 消費税の引き上げがたびたび延期されるなか、財政の健全化は進んでいない。
 国債発行額や残高が多すぎると経済活動に支障をきたす。公債残高のレベルを適正に維持するためには、EU加盟基準でいえば(公債はGDPの60%に抑える)、消費税を27%に上げなくてはならない、と著者は指摘する。これは実際には不可能なことだ。
 とはいえ、いずれにせよ消費税の引き上げは必至だ。そのさい、著者は日本でもインボイス方式を導入して、合理的な税負担をはかるべきだと述べている。
 また、現在は日銀による国債大量買い入れにより、金利が低く抑えられているが、もし金利が上昇してくると、国債の利払い費が増大するという問題が生じる。最悪の場合は、国債をなかったものにするという事態も生じかねない。
 現在、日銀は異次元金融緩和によって、大量に国債を買い入れている。こうした状況をいつまでもつづけているわけにはいかない。「日本はいま、財政法第5条の脱法行為によって、財政ファイナンスに進みつつある」
 現在、問題は隠されているだけで、「この道が行き着く先がインフレであること」はまちがいない、と著者はいう。

〈本当に必要なのは、社会保障制度の見直しによって歳出の増加をコントロールすること、他方で生産性の高い産業を作って経済力を高め、それによって税収を上げることです。日本が抱えている問題を解決する手段は、この2つしかありません。〉

 ついでながら、著者は、法人税を引き下げたところで、国際競争力を高めることにはならないと指摘する。それは配当や内部留保を増やすだけで、賃金の上昇や投資に結びつかない。むしろ企業の社会保障費負担を軽減する方向をさぐるほうがいい、と著者はいう。
 こうして数字を並べていくと、日本経済の将来は暗いと思わざるをえない。唯一、展望が開けるとすれば、技術水準を上げることだという。
「企業のビジネスモデルを転換し、新興国とは直接に競合しない分野に進出することが必要」だという。
 そのためには製造業は、製品の企画や販売に集中し、生産は新興国でおこなうようなシステムをつくらなければならない。
 金融緩和によって、円安を誘導し、それによって景気を回復する方式は、弥縫策でしかない。
「生産性の高い新しい産業が登場するのでない限り、どんな施策をとっても、持続的な成長に結び付くことはない」からだ。
 技術開発面で、1989年に世界1位の座にあった日本は、いまや大きく後退している。IT革命の変化に日本はついていけなかった、と著者はいう。
 情報技術をもとにした新たなビジネスモデルを開発しなければならなかったのに、日本ではこの20年こうした企業が登場しなかった。日本では頭文字をとってGAFAと総称される、グーグルも、アップルも、フェイスブックも、アマゾンも生まれなかった。そのことが、日本経済停滞を象徴している、と著者はいう。
 さらに日本でユニコーン企業と呼ばれる次世代のIT企業が登場しないのは、規制緩和がなされていないためだ(規制緩和は加計学園などのためではない)。最後に、経済再活性化の原動力は、地方の創意工夫にある、と述べて、本書を終えている。
 技術開発による新産業といっても、現実はなかなかむずかしそうだ。それでも、政府発表をうのみにせず、日本経済の実情をしっかりと認識したうえで、どうにか先に進むほかあるまい。
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