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笹倉明の新刊 [本]

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 幻冬舎から笹倉明(僧名プラ・アキラ・アマロー)の新刊新書『出家への道──苦の果てに出逢ったタイ仏教』が発売されました。
 笹倉は姫路の高校(淳心学院)の同窓生です。学校は中高一貫のカトリック校で、かれは高校のときからの編入でしたが、すぐに仲良くなりました。
 大学も同じ早稲田で、学部はちがうものの、ときどき会って、おしゃべりし、おまえ相変わらず字が下手やなあなどと言われていました。
 その後、かれは作家の道を歩み、1980年の『海を越えた者たち』ですばる文学賞佳作、88年の『漂流裁判』でサントリーミステリー大賞、89年の『遠い国からの殺人者』で直木賞を受賞、あれよあれよといううちに売れっ子になっていきます。
 それから何冊も本を書きますが、あまりヒット作にはめぐまれなかったようです。奥田瑛二と笛木優子がからむ『新・雪国』という映画を2001年に制作したりもしましたが、失敗に終わりました。
 そのかれがタイで暮らすようになったと聞いたのは、もう十年以上前のことです。そして、2、3年前、タイで出家して坊さんになったという新聞記事を読みました。
 オビにはこんな紹介があります。

〈直木賞作家である著者は、自らの才能に対する疑いと不安、楽な方へと流れてしまう性(さが)ゆえに、仕事に行きづまり、経済的にも困窮、逃げ出すようにしてタイへ移住する。仏教の国・タイで目にしたのは、毎朝の托鉢風景。俗世への執着を断った修行僧と、彼らに食物を捧げる人々の満ち足りた表情を眺めているうち、著者は我欲に流され、愚行を重ねてきた己の人生のために、一つの決心をするのだった〉

 そのとおりかもしれませんが、この紹介は自虐的すぎるかな。かれは才能もあったし、じゅうぶん努力していたと思うのです。それでなければ、直木賞はとれませんよ。
 さらにオビには、大きく「異国へと落ちていった直木賞作家はついに俗世を捨てた。なぜだったのか?」との文字が躍ります。
 いったい何があったのだろう。おもしろそう。
 そう思って、多くの人がこの本を手にとってくれたら、ぼく自身もうれしいです。
 じっさい、ここには檀一雄の『火宅の人』ではないですが、複雑な人間模様もあけすけに語られています。
 ほんと、人間って困ったものですね。悩みはつきません。
 それにつけ、思うのは、たとえ直木賞をとっても、作家として持続的に稼いでいくのが、いかにむずかしいかということです。
 この本には、そのアップダウンの生活ぶりもつぶさにえがかれています。
 私たちは、だいたい成功物語しか見ないものですが、世間はきびしいもので、大半の人が挫折や苦難を強いられています。
 仏教がその救いになるかどうかはわかりません。しかし、だいじなのは、どこかで精神のバランスを保ち、愉快な気持ちで毎日をすごすということかもしれませんね。
 人生に浮沈はつきものです。苦悩もまとわりつきます。それでも、それを吹き飛ばす道は、どこかにみつかるはずです。
 いまは笹倉が、遠い異国の僧院から、悩める人を照らす存在になってくれることを願っている、というのが正直な気持ちです。
 修行はまだまだ。どうぞ達者で、と一声かけたくなりました。山っ気は禁物です。

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