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創造的破壊──シュンペーターをめぐって(4) [経済学]

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 経済学で規定される完全競争はいかなる時代でも現実だったことはない、とシュンペーターはいう。1890年代以降は大規模企業が優勢になり、大衆の生活水準も上昇した。
 資本主義はそれ自体発展的であり、けっして静態的ではなかった。
「その運動を継続せしめる基本的衝動は、資本主義的企業の創造にかかる新消費財、新生産方法ないし新輸送方法、新市場、新産業組織形態からもたらされるものである」
 つねに新しい商品がつくられ、商品が改良されていく。古いものを破壊し、新しいものを創造して、たえず内部から経済構造を革命化する産業上の突然変異、すなわち「創造的破壊」こそが資本主義の本質だ、とシュンペーターは書いている。
 その過程はけっして連続的ではない。比較的平穏な時期のあと、いきなり突然変異が生じる。それが資本主義の特徴だ。つまり、創造的破壊が爆発的に生じるといってもよい。
 その点からいうと、経済学者の構築する価格競争や寡占産業の理論はあまりに教科書的である。重要なのは、新商品、新技術、新供給源、新組織形態の競争なのだ。
 たとえば小売業でも、経済学者はよく競争の原理を取り上げるが、現実に問題になるのは、百貨店やチェーンストア、通販店、特価市場の登場によって、小売業の構造が変わってしまうことなのだ、とシュンペーターはいう。

 従来の経済学への批判はつづく。
 これまで経済学は、独占企業や大企業が経済の発展を阻害すると批判してきた。だが、かならずしもそうではないというのがシュンペーターの見方だといってよい。
 経済の先行きが見えない時代においては、企業は慎重な行動をとる。商品の価格を維持するため、生産量を制限することで利潤を確保するのもそのひとつだ。要するに自己防衛に走ることになる。
 しかし、創造的破壊の過程においては、多くの企業が壊滅せざるをえない。ある種の産業は損失をこうむり、失業も発生するだろう。そのなかでも生き延びていく企業がある。
 カルテルやトラストをすべて有害だとする考え方は、かならずしも合理とはいえない。硬直価格についての議論も、あまりに完全競争の経済理論にとらわれすぎている。
 価格の長期的硬直性を示す実例はない。新商品はこれまでよりも安い価格で一定の欲望を満たすことになるだろう。いずれにせよ、価格は技術的進歩に適応し、相対的に低下していく傾向がある。
 それでも短期的には、価格はできるだけ高く維持されることになるだろう。だが、それによって不況がさらに深刻化する恐れは少ない。いっぽう価格が下がっても、生産量、雇用量、利潤が増えるとはかぎらない。それはかえって経済を不安定化させていくかもしれない。
 大企業の時代には、資本の温存がはかられるので、経済が進歩しなくなるという見方がある。だが、新生産方法が商品の単位あたり費用を安くすることが期待されるなら、大企業もそれをためらわないだろう。総資産の価値を極大化しようとするのは、大企業とて同じである。大企業は古い設備にこだわって、新しい機械を導入しようとしないというのもうそである。だが、それは設備改良の様子をみながら、慎重におこなわれるだろう。
 純粋な長期的独占はまれな現象である。鉄道や電気、ガスの会社も競争にさらされるし、それが公共事業と位置づけられる場合も、企業は独占的に行動していないかをチェックされるものである。
 独占という概念は実際にはあいまいで、むしろ心理学的だ。それは悪いイメージを呼び起こすために用いられてきたといってもいいくらいだ。そして、アメリカでは独占はほとんど大企業と同義語になりつつある、とシュンペーターはいう。
 経済学は独占状態においては、生産量が抑えられ、高価格が維持されると教える。だが、現実にはかならずしもそれは真実ではない。独占より競争がすぐれているとはかぎらない。それに独占や寡占のもとでも、商品が代替性や類似性をもつ以上、競争はかならず生じている。
 現代の経済は大企業による支配を特徴とする。それは創造的破壊の過程によって生まれ、また創造的破壊によって再編されていく。独占価格を含めて、その独占的地位はかならずしも保証されていない。正確な意味で独占的地位が得られるのは、ごく短期である。
 革新に成功した者には、特許や企業戦略などによって、独占利潤が与えられるかもしれない。だが、それも長期的に保証されるわけではない。
 もちろん新規参入や価格競争を否定するわけではないが、完全競争モデルが非現実的であることをシュンペーターはくり返し説明している。それどころか、このモデルに合致する無数の小企業からなる産業(たとえばアメリカの農業やイギリスの石炭業、繊維産業)は、しばしば生産方法の改善を怠り、経済に「不況の細菌をまき散らしやすい」とまで書いている。
 近代的産業においては「大規模組織が経済進歩、とりわけ総生産量の長期的増大のもっとも強力なエンジンとなってきた」ことを認めなければならない、とシュンペーターはいう。

さらに資本主義を論じるにあたっては、外部的な諸条件を検討してみる必要がある。シュンペーターは5つの外的要因を挙げている。

(1)政府の活動
(2)金の生産(貨幣)
(3)人口の増加
(4)土地(環境)
(5)技術的進歩

 これまでは、こうした外的要因が、資本主義の発展を支えてきた。しかし、はたして、これからはどうなるのか。
 シュンペーターの出す結論は驚くべきものだ。
 資本主義から社会主義への移行は必至だというのだ。
 いまでは時代錯誤と思える展開を引きつづき追ってみる。

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コメント 2

U3

 自分の関わる仕事とか趣味と関係のない専門書を読み解くって面白いです。何しろ知的好奇心を間違いなく満たしてくれますから。
 これはこの記事の主旨とは異なる余談だが、この『経済発展の理論(上)』の著作者名はシュムペーター、原語でも「Schumpeter.Joseph.A」となっているので、本当はそちらの方が正確に言えば正しいのだろうけれど、日本語の読みとしてはだいだらぼっちさんが表記する「シュンペーター」が正解だと思われる。
 日本では「computer」を「コムピューター」と読み書きしないのと同様である。
by U3 (2021-11-17 11:13) 

だいだらぼっち

いつもありがとうございます。また貴重なご指摘に感謝申し上げます。たしかにアンブレラ、シンボル、タンバリンもそうですね。
by だいだらぼっち (2021-11-19 07:20) 

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