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いつまでも財政拡大はできない──『バブルの経済理論』つまみ読み(3) [経済学]

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 国際的な基準でみると、2020年段階で日本の政府債務・GDP比率は270%に達したという。つまり、日本は名目GDPの2.7倍の国債を発行しているということになる。OECD主要23カ国のなかで、これほどまで多くの割合で国債を発行している国はほかにない。このまま行けば、日本の財政は破綻するのではないか。多くの人が心配しはじめている。
 櫻川昌哉の『バブルの経済理論』を読んでみる。
 量的緩和がはじまる以前の2012年段階でも、日本の債務残高は対GDPで180%に達していた。にもかかわらず、国債利回りは2%未満と世界的にみても、もっとも低かった。2021年段階でそれは0%台とさらに低くなっている。
 ふつうは債務残高が増えると、国家財政のデフォルト・リスクが高まり、国債利回りが上昇する。ところが、日本の場合は、そうならなかった。その理由として、著者はいくつかの仮説を挙げている。
 ひとつは消費税率が10%と低く、まだ税率の引き上げ余地があると考えられ、財政破綻のリスクは低いと見積もられていること。
 ひとつは金融緩和の効果。とりわけ2013年4月以来の量的緩和による長期国債の買い取りが長期金利を押し下げていること。
 さらに日本では90%以上の国債が国内で保有されていること。とりわけ2019年段階で日本銀行の保有率は50%以上となったが、民間銀行や保険会社、ゆうちょなどの公的金融、公的年金基金などの国債保有率も高かった。こうした日本の金融機関が国債の保有を支えている。
 日本の国債利回りは他の先進国とくらべて圧倒的に低いが、それでも日本の投資家は日本の国債を買いつづけている。その理由として銀行などの貸し出しの伸び悩みを挙げる人もいる。
 だが、著者はいう。

〈利回りが低いからといって、国債は安全な資産ではない。政府に保護された金融機関や時代の流れの中で役割を終えたはずの金融機関が、国債の受け皿機関として温存されたのである。国債市場を構成するのは海外で資金運用する能力を持たない金融機関、つまり「安全資産の欠如」に直面している金融機関であり、市場の情報が価格に正しく反映されていないのである。〉

 その結果、市場は骨抜きになったしまった。利回りが上昇しないと、緊張感がなくなり、政治家はますます財政再建を先送りし、国債残高はさらに積み上がっていく。その異常さにもっと気づくべきだ、と著者は警告する。
 にもかかわらず、日本の財政が安定しているようにみえるのはなぜか。現在の日本経済は余剰資金がかなりの規模で存在するバブル経済だ、と著者はいう。経済成長がほとんど見込めないなかで、余剰資金は安全資産に向かう。現在の銀行預金は700兆円を超えているが、そのうち貸し出されているのは450兆円ほどで、残りの貯金は国債や日銀への預け入れ(超過準備)に向けられている。
 2013年以降の量的緩和以降、デフレはほぼ終息し、名目成長率はプラスに転じたが、国債の利率は成長率を1.5%ほど下回るようになった。現在、「日本国債の価値を支えているのはバブル、つまり借り換えで償還費用を賄うことができるという期待である」と、著者はいう。しかし、余剰資金がだぶついているからといって、いくらでも財政赤字を拡大できるわけではない。

 1990年代以降、日本の国債はGDP成長率を上回るペースで発行され、2006年にはすでにGDP比170%を超えていた。その後、リーマン危機、東日本大震災などがつづき、財政再建計画は水の泡となり、2019年段階で国債のGDP比は230%となった。さらに、新型コロナ・ショックが追い打ちをかけて、国債残高はますます積み上がっている。2025年までに基礎的財政収支(国債費を除く歳出から税収・税収外収入を引いた額)を黒字化するという目標もさらに遠のきつつある。
 基礎的財政収支の黒字化は、財政健全化のための最小限の指標である。そのなかで、最大の問題となるのが社会保障費の増大だという。増えつづける社会保障費にはたして財政は対応できるのか。
 2018年に120兆円だった社会保障給付額は、2040年には190兆円程度に膨れあがるとみられている。その上昇分70兆円のうち半分が税金でまかなわれる。
 成長率やインフレ率の算定にもよるが、2040年段階で社会保障費の財政支出は対GDP比5%増になる、と著者は想定している。国債の利払い費は成長による税収増でカバーされるとみたうえで、基礎的財政収支のバランスをとったうえで(プラス2%)、社会保障費をまかなうにはGDP比7%の税収増が必要であり、それをすべて消費税でまかなうと、著者の計算によると、それは17.5%になる。すると、消費税は現行の10%から27.5%に引き上げなくてはならない。
 これはもちろん机上の計算である。その計算は利子率が成長率より高いか低いかによっても変わってくるし、さらに国際的な動向も関係してくる。それが実際に実施できるかも問題だ。
 しかし、著者は「増え続ける社会保障費を賄うための増税スキームをあらかじめつくっておくこと」がだいじだという。「社会保障費がGDP比で1%上昇すれば、消費税率もまた1%上昇させると法律でルール化するのが望ましい」。
 ただし、消費増税のたびに消費不況になる過剰反応を抑えるには、政府による正しい説明が求められる。年金と消費税の問題がつながっていることを国民に理解してもらわなければならない。「政治に求められる見識とは、年金を受給したければ増税を受け入れるべきであり、増税が嫌なら年金受給をあきらめるしかないことを国民に向かって正直に説明することである」
 残るは国債問題である。
 経済が過剰貯蓄状態にあるなら、いくら国債を発行しても債務不履行にはならないし、インフレを懸念する必要もない。これがMMT(現代貨幣理論)といわれる考え方である。
 この考え方は日本経済の現状に即しているようにみえる。国債利回りが成長率を下回っているかぎり、これは正しい。いくら国債を増やしても、財政赤字のコストは小さい。インフレになれば、その時点で財政拡大をやめればいいということになる。
 しかし、そううまい話があるのか、と著者はいう。
 財政拡大は短期的には民間経済を刺激するが、次第にその効果は薄れていく。クラウディングアウトをおこして、民間需要を収縮させるからである。
 中期的には、国債の大量発行は民間の資本蓄積を阻害する。さらに長期的には「財政赤字が持続すると、政府債務が経済の規模に比べて大きくなりすぎるという弊害が生まれる」。
 その結果、財政が厳しくなり、長期の成長にとって必要な研究開発、教育、経済のデジタル化といった公共投資が抑制されてしまう。さらに財政余力がなくなり、いざというときの対応が追いつかず、長期的な経済停滞をもたらしかねない。「結局のところ、財政赤字が持続すれば、国債残高は膨れ上がり、経済成長は減速する」
 現在、日本は財政と金融の分離を原則とする財政ルールを放棄し、中央銀行が国債を買い支えるという財政ファイナンスの入り口にさしかかっている、と著者はいう。

〈中期的には、国債発行が投資の変化を通じて資本蓄積に影響を与える。国債発行は民間部門に利用可能な資金を政府が奪うので、一般的に考えれば、民間の資本蓄積を阻害する。〉

 いつまでも財政を拡大し、国債を増発しつづけるわけにはいかない。政府債務残高がGDP比で260%を超えている現状は異常である。
 著者はかつて日本の軍国主義時代におこなわれた日本銀行による財政ファイナンスが、敗戦後のハイパーインフレーションを招いた歴史をふり返って、こう述べている。

〈勝ち目のない戦争は、敗戦がほぼ明らかになっても撤退の判断ができずに、ずるずると最悪の事態へ突き進んでいったのである。……無担保貸出にまで頼って軍拡を推し進めたのは誰かといえば、統帥権独立を盾に権力を牛耳った参謀本部である。今となっては偏狭で傲慢な、そして狂信的な軍国主義者であるかのように描かれる彼ら陸軍の幹部は、難関の試験で選抜されて、陸軍士官学校、陸軍大学を超優秀な成績で卒業した“普通”の秀才でもあった。〉

 現在の構図はこれとよく似ているという。足下を見ることなく、経済大国の栄光を追い求めて突っ走った先には何が待っているのだろうか。
 いまおこっているのは「経済の贈与化」であり、経済の贈与化が進行すれば、市場経済は縮小し、経済は成長しなくなる、と著者はいう。現在、新規の貯蓄のうち民間投資に回るのは5割強で、4割強は政府債務の購入に回されている。このことは金融の劣化を示す以外のなにものでもない。
「日本経済を筋肉質の経済につくり変えるために、金融の劣化を食い止めなければならない」
 日本経済を正常な軌道に戻すために、著者は以下のような提言をしている。ひとつはゼロ金利政策からの離脱。財政拡大政策を打ち切りにすること。基礎的財政収支の黒字化を目標として、消費税を12〜13%に上げること。円の国際化を進め、国債の海外保有を促進すること。
 いずれにせよ、いまは経済の変わり目だ。

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