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鈴木直『アディクションと金融資本主義の精神』を読む(2) [商品世界論ノート]

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 まだ全体を読み終えていない。最初の1、2章を読んだところで、挫折しそうになっている。渾然一体としている。スケールの大きな著作なのはまちがいないが、このまま進むと、渾然ではなくて混然のまま終わるのではないかという悪い予感もしないではない。
 著者は序章に「この旅の最終目的地をとりあえず見定めておきたい読者」へのアドバイスとして、「まずは最後の第7章を通読してから冒頭に戻るという一風変わった旅行メニューも提案しておきたい」と述べてくれている。
 なまけものの当方としては、さっそくこのアドバイスにしたがって、第7章の「金融資本主義とアディクション」から読みなおすことにする。それもマルクスの価値形態論やフェティシズム論に触れた7章の前半はややこしいので省略し、「金融資本主義の誕生」以降を読んでみることにする。
 著者によると、金融資本主義の誕生は1971年8月のいわゆるニクソン・ショックにさかのぼるという。このときアメリカのニクソン大統領は、ドルと金の兌換停止を発表した。それから2年後、金ドル本位制にもとづく固定相場制は完全に崩れ、先進国は変動相場制に移行することになる。こうして、1945年に発足したブレトン・ウッズ体制は崩壊した。
 しかし、そもそもブレトン・ウッズ体制とは何だったのか。
 1944年7月、アメリカ・ニューハンプシャー州のブレトン・ウッズで連合国通貨金融会議が開かれ、国際通貨基金(IMF)の創設などが決まる。そこでドルを基軸通貨とする固定為替制が誕生した。
 だが、イギリスを代表して会議に出席したケインズは、それに反対した。独自の世界通貨構想をもっていたからである。ケインズは、国際決済を処理するための人工通貨を創出すべきだと提案した。
 著者はこう説明する。

〈この通貨はバンコールと名づけられ、対外決済を処理するためだけの純粋な計算単位として考えられた。バンコールと各国通貨は固定為替で結ばれるが、貿易赤字が一定水準を越えれば、それに利子が課せられ、自国通貨の切り下げを迫られる。輸出超過国も同じようにバンコール債権に利子が課せられ、自国通貨の切り上げを迫られる。こうして国際収支のバランスが回復される。〉

 重要なのは、為替投機の対象とならないバンコールが介在することによって、各国通貨は直接取引されることなく、為替レートの調整がなされることだった。しかし、アメリカの根強い反対によりケインズ案は葬られ、ドルが唯一の基軸通貨になることが決まった。
 金ドル本位制は長くつづかない。「トリフィンのジレンマ」が発生したからである。

〈アメリカが世界経済の成長のために、基軸通貨ドルの国際的流動性を確保しようとすれば、絶えず国際収支を赤字化しながら、ドルを世界に供給し続ける必要がある。それによるドルの過剰発行は、やがて保有金が許容する限度を上回るだろう。そうなればドルの信認が揺らぎ、アメリカの金が国外流出する。そして金の市場価格が、公式の兌換レートから乖離し、投機の対象となる。これがブレトン・ウッズ体制を支えきれなくなった一つの原因だった。〉

 ニクソン・ショックと二度の石油ショックをへて、開始されたのが、下からではなく「上からの階級闘争」だった、と著者はいう。新自由主義の名のもと「民営化と規制緩和による戦後福祉国家の段階的スリム化」が断行された。
 新自由主義のビジョンとは、次のようなものだ。
 肥大化した公的セクターを民営化し、公務員を適正規模まで削減する。規制緩和をおこなって、女性の労働力を有効活用し、多様な働き方を可能にする。それにより女性は家事と育児から解放され、消費市場は拡大するだろう。
こうしたビジョンは、今後の明るい経済社会の方向を指し示すかのように思えた。
 だが、新自由主義による一連の改革がもたらしたのは、じっさいには「低賃金労働の容認と促進、雇用の非正規化の拡大」だった、と著者はいう。
 いっぽうブレトン・ウッズ体制から変動為替制に移行したあとも、ドル本位制は変わらなかった。「アメリカの巨大な対外赤字は解消せず、しかも、為替相場がドル安に振れることもなかった」。
 1980年代には、貨幣がみずから商品と化し、デリバティブと呼ばれる金融派生商品が発生する。いまや貨幣は単なる商品の媒介手段ではなく、みずからが商品となり投機対象となってしまった。
 それを可能にしたのが、1980年代に実施された金融の規制緩和だ。日本では1980年に外為法が改正され、対外取引が原則的に自由化された。資本移動の自由化が進み、さらに金利の自由化も進む。
 1980年代初頭にアメリカが日本に期待したのは、日本が金融・資本市場を開放することによって、外国資本が日本に流入して、それにより円高ドル安が促されることだった。
 ところが、じっさいには逆の現象がおこった。アメリカの高金利を求めて、日本の資金が流出し、さらなるドル高円安を招いたのである。それを政治的に是正しようとしたのが、1985年のプラザ合意にほかならなかった。
 こんなふうに書かれている。

〈ここからも分かるように、資本移動が自由化されると、為替相場は国際収支よりも、金利の方に敏感に反応するようになる。低金利の黒字国(日本)から高金利の赤字国(米国)に資本が移動すると、赤字国の通貨は上昇し、黒字国の通貨は下落する。それは両国の貿易不均衡を拡大するように作用する。いわば、為替にポジティブ・フィードバックがかかってしまう。〉

 つまり、貿易収支よりも金利差が為替レートを左右してしまうのだ。これはいま(2024年)でもおきていることだ。
 経済は為替の変動に振り回されるようになる。プラザ合意のあと急激に円高ドル安が進むと、日本企業は円高に耐えきれず、工場を海外に移転した。だが、いったん移転した工場は、ふたたび円安に戻ったからといって、現地の事情もあり簡単に本国に戻るわけにはいかなくなってしまう。あとには経済の空洞化が広がっていく。
 新自由主義と金融資本主義は二人三脚で進んだ。規制緩和と民営化に加えて、富裕層の減税が実施されたのだ。その減税分を補うのが国債の発行だった。
「本来ならば、資産保有者への課税を大胆に強化することによって、国家財政を均衡化させ、租税国家としての原則に立ち戻るのが本筋だ」と著者は主張する。
 なぜ大量の国債発行がまちがっているのか。それは、大量の国債発行がハイパーインフレや財政破綻を招く恐れがあるからだけではない。

〈本書の視点から見ると、国債発行の真の問題は別にある。資産保有者の税負担を賃金依存者の税負担よりも相対的に軽くした上で、租税の不足分を国債発行で賄い、その金利を租税の中から資産保有者に払い続けるということは、とりも直さず、賃金依存者である租税負担者から資産保有者への長期的な所得移転を国家が仲介しているということだ。〉

 この指摘はまったく正しい。ただし、国債の発行を停止すれば、増税しなければならないが、それをどういうかたちでおこなうかが問題となるだろう。
 それはともかくとして、著者が最後に指摘するのが、金融資本主義がアディクションを生みだしやすいということである。
 ほんらい商品の媒介機能をはたす貨幣がフェティシズムの対象となれば、ますます貨幣愛が高まり、貨幣へのアディクションが強まることはまちがいないだろう。
 1980年以降の金融資本主義の発展は、デリバティブを生みだし、すべての人に投機の機会をもたらした。
 2016年にはイギリスがEUを離脱し、トランプがアメリカ大統領になるという信じられないできごとがおきた。だが、このふたつのできごとには共通点がある、と著者はいう。
 それは「忘れられた人々」の怒りの噴出だ。
為替相場が招いたドル高は、国内の製造業に大きな圧力をかけ、その結果、製造業の疲弊と地域共同体の解体を招いた。そのいっぽう、新自由主義国家は高金利で資本を招き寄せ、経済社会全体をカジノ化していく。
 製造業で地道にはたらくよりも、金融商品を動かして利ざやを稼ぐほうが収入が高いとなれば、優秀な人材はそちらに流れ、貨幣へのアディクション傾向がますます増大していく。
 その結果、忘れられた人びとは、トランプの暴言や単純なメッセージに共感を寄せ、みずからの不満と怒りのはけ口としていく。

〈トランプ現象を通じて垣間見えてくるのは、金融資本主義がもたらした産業資本主義の解体過程と、そこでの人々の孤立化だ。そこで生じた不安や怒りは、単純なものを求めて、アディクション的行動へと流れていく。〉

 資本主義はいつもコマのように回りつづけていて、止まったときにはおしまいになる。そのため、資本はいつも人びとを、満足感が永久に得られないアディクション状態に置く、と著者はいう。
 今後、資本がめざす方向は認知機能の開発だ。食欲に限界はあっても、認知機能に限界はない。
情報社会が発達していくと「社会のあらゆるレベルで複雑な議論や手続きや行為調整が敬遠され、単純な命令や簡明な権力行使が喝采を浴びるようになる」状況がくることを、著者は恐れている。
 ここで問題はふたたび現在の金融資本主義とアディクションの共依存に戻る。
 アディクションとは何か。そもそも人はなぜアディクション行動におちいるのか。それをふり返ることは、みずからのアディクション行動を脱することにつながるだけではない。「資本主義が民主主義をコントロールする社会ではなく、民主主義が資本主義をコントロールする社会を再構築すること」につながるはずだ、と著者は述べている。

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