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37歳危機説 [時事]


12月14日夜、佐世保市のスポーツクラブで、男が散弾銃を乱射し8人を死傷させたあと、自殺するという衝撃的な事件が起きてから10日ほどたった。
その事件には何の関係もなく、たまたま三浦展の『下流社会 第2章』(07年9月刊)を読んでいたら、37歳危機説というコラムが載っていたので、ちょっと驚いた。
その書き出しはこうだ。
〈2005年にUFJ銀行(当時)のATM盗撮事件で逮捕された主犯格は37歳だった。01年、池田小学校に侵入し、小1数名を殺害した宅間守(死刑執行済)も当時37歳だった。98年、和歌山毒入りカレー事件の林真須美被告も当時37歳。また少しずれはあるが、04年、奈良市で小1少女を連れ去り、殺害、遺棄した小林薫服役囚は当時36歳。05年、陸橋大学大学院教授である父を殺害した無職男性は38歳だった〉
佐世保の事件の犯人、馬込政義はインストラクターの女性と友人を道連れにして自殺したが、かれも37歳で、無職だった。
アメリカの大学や高校では、校内で無差別に銃を乱射したあげく、犯人が自殺するという事件が頻発しているが、日本でこういう事件はめずらしい。
この犯人はアメリカの事件を研究して、かなり前から周到に準備を重ねていたのではないだろうか。
自殺する前に、これまでの人生のうらみつらみを周囲にぶつけるように、派手に人を殺すという発想はおぞましいとしか言いようがない。

『下流社会』には、こう書かれている。
〈人生が、あまりうまくいっているとはいえない人にとって、37歳前後という年齢は、非常に重い年齢なのではないか、と思う。とすると、近年増えてきた、フリーター、失業者、ニートなどが37歳を迎えると、けっこうヤバイ状況が生まれるのではないか〉
〈35歳ならまだまだ若いという気持ちがある。しかし37歳というと、40代がぐっと近づいて見えてくる。人生の折り返し点。人生のやり直しがいよいよきかない年齢になるのである。そのとき、フリーターや、ニートたちは、なかなか平常心は保てないのではないだろうか。その中から、異常な犯罪に走る人間が出ても不思議ではない〉
〈団塊世代に次いで人口が多く、フリーター、ニートも多い団塊ジュニアが37歳になるのは2010年ごろ。そこで何が起きるか、注意しておく必要がある〉
あまりありがたくない予言だ。
そして、それが早くも今回的中した格好になった。
すでに手遅れかもしれないが、これからでも何か対策をとらないと、常識では考えられないような事件がこれからも頻繁に起こる可能性がある。
事件が起こってから、犯人を厳罰に処すべきだと声を荒げても、亡くなった被害者が戻ってくるわけではない。
その前に、どうにか手を打たねばならない。

それにしても、実際にうまい手があるのだろうか。
働く意欲があるのに働く場が与えられないという人に対して、みんなに喜ばれるような仕事をつくるよう社会がケアするのが理想的だ。
しかし、なかなかそううまくいかないかもしれない。
三浦展によると、「下流くん〔フリーター、ニート、失業者〕」は、「マイペース」「めんどうくさがり」「おとなしい」「地味」「人のあとについてゆく」「人の意見に左右されやすく流されやすい」といった性格の人が多く、性格が弱いために人とのコミュニケーションがうまくいかず、管理職はおろか、正社員にもなれないという。
「体力に自信がない」「運動は得意でない」「よく体調を崩す」、そして「自殺を考えたことがある」というのも特徴だという。
〈フリーター、ニートとひとくくりにされることが多いが、ニートについては肉体的、精神的な健康上の理由でニート化する可能性も大きいのではないかと思われる〉
〈失業したりニートになったりするのは、コミュニケーション力の不足に起因することが多いと言えそうだ〉

しかし、ぼくは三浦展のとらえ方がどうも好きになれない。
かれの挙げている「下流くん」の指標は、自殺願望を除いて、ぼくにもよく当てはまる。
まるで性格が弱いのが悪いといわんばかりだ。
誰だってわかるように、強い性格をもつ人がえらいとはかぎらない。
むしろ弱い性格の人をはじきとばしている現在の風潮こそが異常なのではないだろうか。
著者が認めているように、人とのコミュニケーションが苦手な人には、「控えめ」「まじめ」「慎重」「正直」「じっくり物を考える」「頑固な」「こだわりが強い」といった、なかなか優れた性格もある。
問題は、そういう人がばらばらに寸断されてしまい、そのために優れた性格が引き出されずに弱い性格だけが浮き彫りにされてしまうことだ。
コミュニケーション力がないとされている人は、実は人を感動させるすぐれたコミュニケーション力の持ち主かもしれない。
ネクラ作家の面々をみれば、そのことがよくわかる。
マイナスと思われている力を集めてプラスに変えること、それがだいじなのだと思う。
三浦展の発想は、「下流くん」をもっとしっかり取り締まろうという管理社会強化の方向へと行き着きかねないのではないか。


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Bacupile

 へぇ!とそんな共通点があったのか!とビックリしました。

 僕も下流君に属するので、頑張らねばと思います。
by Bacupile (2007-12-30 01:58) 

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