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商品世界の膨張──『儀礼としての消費』を読む(4) [商品世界論ノート]

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 著者はこう書いている。

〈人間は社会的存在である。財の物理的性質だけを見ていても、決して需要を説明することはできない。人間が財を必要とするのは、他の人々とコミュニケートするためであり、自分のまわりで起きていることに意味を付与するためである。〉

 これが人はなぜ商品(財)を求めるのか、についての著者の回答である。そういわれても、すっきりと納得するのはむずかしいだろう。
 さて、これをどう理解すればよいか。
 コミュニケートとは交換、連絡、意思疎通、拝領などを意味する。商品が交換によって得られることはまちがいない。それは単なる財の移動にとどまらない。たがいに何かをもらいあうのである。
 その何かとは大きくみれば文化だといってもよい。本にしても机にしてもパソコンにしても、それらの商品を得るには、他者とコミュニケートしなければならず、その結果として、人は文化を獲得し、自分のまわりで起きていることを認識することができる。
 さらに著者は、商品世界においては、情報をコントロールすることがだいじであって、このコントロールを失うと、商品世界から脱落し、逆にコントロールを強めれば強めるほど、商品世界での大きな権力をもつことになるとも記している。
 ここから、財のグルーピングが生じる。衣食住にかかわる財の集合は、社会階級ごとに区分される。露骨にいえば、上流階級はいい家に住み、いい衣装を身につけ、いい食事をとっているわけである。
 だが、商品世界はずっと固定されているわけではない。常に新しい商品が生まれ、それが必需品となり、文化を変動させていく。はじめ新商品にたいする需要は低いが、それが全人口に広がるにつれて、需要曲線は急勾配に上昇し、その後、徐々に平坦となり、飽和状態に達する。1960年ごろは、電話やテレビ、洗濯機、掃除機などがそうした商品だった。
 そのいっぽうで、著者はすたれていく商品があることも指摘している。たとえば、純銀のシガレット・ケース、嗅ぎタバコ入れ、タバコのパイプ、甘いプディングの付け合わせにする干した果物や豆、等々。著者の郷愁がヴィクトリア朝時代に置かれていることが推察されて、おもしろいが、いずれにせよ、われわれのまわりでも、昭和レトロのように、さまざまな商品が消えていっているのである。
 著者の挙げる例は、いささか古くさいが、イギリスではテレビが全階級に普及したのに(それでもテレビを長く見るのは労働者階級だという)、電話は労働者階級にはあまり普及していないとの指摘もある。電話は上流階級の必需品だが、労働者階級はさほど電話を必要としていなかったというわけである。いまのスマホ時代には、ちょっと考えられないエピソードだ。
 テレビの流行を感染症モデルでとらえているのもおもしろい。ひとつの家庭がテレビを買うと、テレビにたいする免疫ができるが、それを知った別の家庭がこんどはテレビという病原体に感染するというのだ。それはテレビだけではないだろう。友達のサークルで、スマホがはやると、それがたちまち伝染するのと同じである。そこでは価格と所得の需要理論は、流行の感染に圧倒されてしまいそうになる。

〈産業化によって消費者の生活は複雑になってきている。物質的な財を見ても、実際、いろいろな物がいやが上にも多くなってきている。それでも、幸福のため、一貫した可知的な文化のために必要なマーキング作業の交換から落ちこぼれないようにしようと思ったら、今いる位置から後退しないよう、ますます頑張って走らねばならない。〉

 要するに、いまの時代は産業化によって、どんどん新商品がつくられているために、消費者は世間でのつきあいに取り残されないよう、がんばって新商品をとりいれ、新たな文化に順応していかなければならないというわけである。
 もちろん、消費を動かすのは新商品だけではない。多くの人の場合、結婚し、子どもが生まれ、老齢になるにつれ、ライフサイクルに応じて、消費の内容は変化していく。また万一のできごとに備える必要も高まっていくだろう。
 近代産業社会では、生活水準は主な生活用品の所有水準によって決まってくる。所有する財は家族の規模によっても異なるし、個人それぞれの事情や趣味によっても異なる。商品の構成は、過去の所得の結果であり、未来に予測される所得の影響を受ける。さらに所有する商品が文化や流行の影響を受けることもいうまでもない。
 こうして商品世界は変動していく。膨張していくといってもよい。産業社会の進展とともに次々と新たな商品が生まれるなかで、著者が注目している商品とサービスは「個人の体があく機会を増やすための財」である。
 家庭電化製品はたしかに家庭での労働を軽減し、「体があく機会」を増やした。著者は、そうした新商品(「最新式の技術的補助器具、新発明の資本設備」)は、時間とエネルギーを軽減してくれるものだとして、それらは当初、贅沢品にとどまるかもしれないが、実質所得の上昇とともに、家庭のなかに受け入れられていくことになると論じている。
 消費には周期性があり、それはひとつに世代交代が関係している、とも指摘している。
 各家庭には、その所得に応じた衣食住の消費セットのようなものがある。たとえば食器は普段使いのものともてなし用のもの、ビール用のコップとワイン用のグラス、洋服はふだん着るものと外出用のもの、葬式や結婚式のもの、住の分野では部屋数やさまざまな家具、台所や風呂の設備、寝室のベッドなど枚挙にいとまがない。そうした衣食住の消費セットは、世代交代にともなう新しい家庭の創出と、そのライフサイクルに応じて再編されていくことになる。人口が増えるとGDPが増えるというのは、そういうことだ。
 だが、著者はこんなふうにいう。

〈社会の成員は誰もが潜在的に人生において同じ機会を持っているのだが、その場合ですら、財の間の質の差は行事のランクや人々のランクのマーカーとなるのである。必需品の文化的側面は低評価かつ高頻度の行事における使用として明らかになり、他方、奢侈品は本質的に高評価かつ低頻度の行事において使用される傾向を持つ。〉

 つまり、どの家庭も衣食住の消費セット(乗用車なども加えてよい)をもつが、そこにも所得に応じた階層性が忍びこむというわけである。必需品がふだん使いで、奢侈品が行事用の特別な品なのはまちがいないが、ハイランクの家庭にとっては、一般家庭の贅沢品がふだん使いの必需品になることも示唆されている。
 さらに所得に応じて消費の質はより高度になっていく。大量生産品ではなく、特別注文の製品が選ばれることになる。
 毎日、周期的にくり返される高頻度な仕事は、低ランクなものとみなされるがちだという知見も示されている。その代表的なものが家庭内労働だ。家を掃除し、ベッドを整え、衣類を洗濯し、食事を用意し、買い物に行くのは一日も欠かせない高頻度の仕事だ。これに乳幼児と病人の世話も加わると、女性の負担はかぎりなく重くなる。
 そして、ここにも階層性がはたらく。「地位が高くなるにつれて周期の制約はゆるくなり、地位が低くなるにつれて周期の制約が強まる」。イギリスの貴族と使用人の関係を想像すればよいだろう。貴族は使用人によって高頻度の仕事から解放されるわけだ。
 だが、「ライフスタイルの変化は、家計の過程における周期性のパターンの変化」をもたらす。使用人がいなくても、新たな商品群が投入されると、家庭内で必須とされる「周期性のパターン」労働が軽減されるのだ。
「今日の奢侈品の中で未来の必需品となるのは、性質として周期性を緩和する効果を持つ財の集合であろう」と著者は述べている。われわれはそうした効果をもつ財(商品)として、洗濯機や冷蔵庫、掃除機、食洗機などの電化製品、その他もろもろの用具を挙げることができるだろう。
 商品が流行の波に乗り、やがてすたれていくのは、消費者のきまぐれによるのではなく、ライフスタイルの変化、代替商品の登場、価格の効果などによるものだ。しかし、著者が重視するのは消費の技術が「体があく」方向に作用することである。実質所得の上昇がそれを可能にするとも述べている。
「消費者は一定の財の所有者とみなされるのではなく、消費行動において一つの周期性のパターンを実行しているものとみなされなければならない」。著者のとらえ方では、貧困とは、この周期性のパターンが最低所得のもとで最悪の状況を示しているケースをいう。
 消費の周期性とパターンは恒常所得と相関している。同一の社会階層内においては同一の消費水準が成立し、同一のつきあい関係が生まれる。
 ある年齢になると、人はだいたい自分の所得がこれからどのくらいになるかがわかるようになる。人生の後半に向かって、消費水準をいっそう高めようとは思わなくなる。
 ドイツの調査では、家庭の耐久財を所有する割合は、肉体労働者も公務員・専門職も同じだった。しかし、より所得の多い公務員・専門職は家の家具や内装におカネをかけていた。これは家を社交に使うことが多いためだという。
 消費水準が社会階層によって異なるのは、所得のちがいもさることながら、同一階層内のコミュニケーションが存在するからである。
 さて、こうした商品世界をどのように評価すればいいかが次の問題となってくる。

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U3

勉強になりました。
by U3 (2023-11-23 10:37) 

だいだらぼっち

いつもありがとうございます。
by だいだらぼっち (2023-12-13 09:19) 

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