SSブログ

『暴走する資本主義』を読む(1) [時事]

img197.jpg
読書といっても、このところ通勤電車の行き帰りくらいのものだが、傾眠というのだろうか、途中で座れたりすると、ついうとうとしてしまうので、いつまでも同じ本を握りしめていることが多い。
間宮陽介著『ケインズとハイエク』も中断してしまった。
どうも根気がない。
かといって、昔から本を買いこむくせが抜けないので、読みもしない本がたまっていって、そこここにあふれだす。
少し片づけようと思って、手にとったのがロバート・ライシュの『暴走する資本主義』(雨宮寛、今井章子訳)だ。
いつものようにちょっとずつしか読めないし、途中で挫折してしまうかもしれないけれども、ともかくも読書メモを残しておくことにした。
著者のライシュはアメリカのクリントン政権時代に労働長官を務め、現在はカリフォルニア大学のバークレー校で経済学を教えているそうだ。
民主党大統領候補オバマ氏の政策顧問もしているというから、実際の政治的影響力ももっている。
世界的危機への対応を訴えるマケイン氏と「変革」を訴えるオバマ氏と、どちらが次期大統領の座を射止めるかはまだ混沌としているが、アメリカで初の黒人大統領候補となったオバマ氏が当初の予想以上に大きな支持を得て、ここまでのし上がってきた経緯を考えると、そこにはレーガン政権以来、経済政策で大きな役割を果たしてきた「新自由主義」に対する不信がかなりつのっているのではないだろうか。
本書の原題は『Supercapitalism(スーパーキャピタリズム=超資本主義)』。
日本語版のタイトルを『暴走する資本主義』としたのが心憎い。
〈自由市場資本主義は大成功を収めたが、民主主義は衰退してしまった〉というのが、本書のメインテーマである。
グローバルな競争のなかで経済はいびつに成長したが、社会的な公正は失われつつあるのではないかという思いを著者はいだいている。
〈大恐慌を乗り越えた米国は経済と民主主義が相乗効果を生み出し、第二次世界大戦で勝利を収め、世界の大舞台に登場した。そして空前の繁栄を謳歌し、それを広く共有していた〉
女性やマイノリティの社会的地位が低かったことを考えれば、1950年代、60年代はけっして黄金時代とはいえなかったが、膨大な中間層が出現して、アメリカ人の大半が新築の家を購入し、食器洗い機や冷蔵庫、テレビ、ステレオをそろえ、自家用車でドライブを楽しむようになった。
ところが、1970年代以降、こうした状況は一変したと著者はいう。
〈大企業はより競争力をつけ、グローバルに展開し、先進性のある存在となった。資本主義の暴走、つまり私が超資本主義(スーパーキャピタリズム)と呼ぶ状況が生まれたのである〉
安定した巨大企業と監督官庁の規制、組織率を誇る労働組合、世間に配慮する企業経営者、住民の守る地域社会、節度ある投資──こうした仕組みがだんだんとなくなって、企業による弱肉強食の時代がはじまったのだ。
〈こうした動きは、冷戦を戦うために政府が開発した科学技術が新製品やサービスによって実用化されたころから始まった。そして運輸、通信、製造業、金融業がその起点となり、新たな競争相手が生み出される状況がつくられるようになった。これらの競争は安定した生産システムに風穴を開け、すべての企業が消費者と投資家を求めて熾烈な競争をする状態になった。この動きは1970年代後半に始まり、それ以降ますます激化していった〉
「新自由主義」とか「新保守主義」とか呼ばれる風潮のもとで、70年代後半からは、自由貿易、規制緩和、民営化がもてはやされ、公正さよりも効率性に重きが置かれるようになった。
著者はアメリカでも、必ずしも大企業の力が増大しているわけではないという。
〈例えば、米国では自動車大手3社(ビッグスリー)が非公式に価格調整や投資の調整をしていたが、現在では少なくとも6つの企業が米国で自動車を生産し、自動車業界の競争は熾烈を極めている。30年前テレビ放送ネットワークは3つしかなく、電話会社も巨人会社が1社あっただけであり、映画会社と音楽会社も数えるほどしかなかったが、現在は通信産業、ハイテク産業、エンターテインメント産業が互いに入り混じった巨大で無定形な市場において、数千もの企業が苛烈な競争を繰り広げている。30年前は、ほとんどの人が銀行に貯蓄をし、銀行の数も1つの町や市に2つか3つしかなかったのに、今では投信や年金も含め何千もの金融機関が個人の貯蓄を獲得しようとしのぎを削っている〉
こういう一節をみると、アメリカも日本も同じだという気がする。
心地よい風の吹いていたさわやかな黄金時代は終わって、嵐に翻弄される日々がつづいている。
なぜ、こういう時代になってしまったのか、はたしてそこから抜け出す手だてはあるのかを考察するのが本書の課題だといってよい。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0