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西欧の豊かさは不潔のせい? [本]

『10万年の世界経済史』を読む(3)

1800年以前、英国の既婚女性が20歳〜44歳のあいだに産む子どもの数は平均で7.6人だったという。それでも社会全体での出生率がわりあい低く抑えられてきたのは、女性の初婚年齢が遅かったこと、生涯独身の女性が多かったこと、そして婚外子の出生が意外と少なかったからだと推測されている。
東アジアでは女性の結婚年齢が低く、またほとんどの女性が結婚したにもかかわらず、出生率はヨーロッパとそう変わらない。著者は間引きの習慣により、女子の数が男子にくらべて少なかったこと、それに貧しさゆえ栄養状態が悪かったことが出生率の抑制につながったのではないかと考えている。
いっぽう産業革命以前は、出生時平均余命は現在にくらべ、ずっと低かった。これは乳幼児死亡率が高かったためだが、当時も人生70年をまっとうする人は多かった(これは江戸時代の日本でもおなじである)。
定住農耕社会より狩猟採集社会のほうが、また都市よりも農村のほうが、平均余命が長かったというのはおもしろい(江戸時代、江戸や大坂が人口を維持したのは農村からの人の流入があったからである)。「昔の都市部は、たいてい混雑してひどく不衛生だったため、ペスト、発疹チフス、赤痢、天然痘などの流行病が急速に広まりやすかった」
死亡率と生活水準は密接に関係している。死亡率が低く、人口が増大すると、生活水準は悪化するのだ。
ここで著者は、ヨーロッパがアジアより生活水準が高かった理由について、実に皮肉な見方をしているので、少し紹介しておくことにする。
(1)オランダと英国は都市化が進んでいたため、死亡率が高かった。「都市化率が高かったことは、出生率を低く抑えると同時に死亡率を上昇させ、高い所得水準を維持する一因だったことがわかる」
(2)ヨーロッパ人はアジア人にくらべ衛生観念に乏しかった。ほこりや汚物のなかで暮らしていたといってもよい。排泄物はあたりにしほうだい、風呂にはめったにはいらない、衣服も洗濯しない。家屋の床に敷いたイグサはめったに取り替えず、食べ物のカスやペットの糞便、尿などもしみこんで、部屋中に悪臭がただよっていた。
〈[中国人や日本人とくらべて]おそらくこの豊かさの大きな要因は、英国人が比較的不潔な環境で暮らしていたことだろう。マルサス的経済の世界では、清潔や勤勉という伝統的な美徳は、社会全体には何の利益ももたらさないばかりか、かえって人々の生活を苦しくし、所得を減少させてしまうものだった〉
西欧の豊かさは不潔のせい?


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