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『戦後世界経済史』(猪木武徳著)を読みながら(1) [商品世界論ノート]

 この本はずいぶん前に買ったのに、何となく読みそびれていた。本を読むのは遅いほうだ。この年になると、そうたくさん読めないし、読んでも端から忘れてしまい、しまいに何が何だかわからなくなってしまう。そんなふうにテキトーに毎日を送っている。
 むずかしい話はわからない。この本を読みはじめたのは、それとなくなつかしさを覚えたからである。著者とはほぼ同年代だ。だから、これから書くことは年寄りの繰り言めいた思い出みたいになってしまうかもしれない。根気がなくなったら、途中でやめてしまう公算が大きい。「自由と平等の視点から」というのが本書のサブタイトルだが、ぼくの視点は昔をふりかえりつつというのがせいぜいだろう。少しずつ読んでいきたいと思っている。
 最初は総論だ。
 戦後経済の特徴として、著者は次の点を挙げている。

 市場化の動きと公共部門の拡大
 世界的な規模での市場の拡大

 ほかにも、所得分配の不平等、世界的な統治機構の未成熟、信を基盤とする自由な市場経済の重要性が指摘されているけれども、それらは先に挙げたふたつの特徴に付随する問題点だといってもよい。
 要するに市場が生活の隅々にまで浸透し、それが身のまわりだけではなく世界的な広がりをもつようになったのである。そして、そのような巨大化・微細化する市場をコントロールするシステムとして、国家さらには世界機関の役割が重要になった。
 ぼくなりの言い方をすれば、これは商品世界が地球全体をおおうようになったということではないのだろうか。
 そんな商品世界の現状を、国ごとに一定期間の指標としてあらわしたのが国内総生産(GDP)という概念だ。
 あたりまえかもしれないが、著者による次のような指摘がおもしろかった。

〈いかなる経済も、市場部門(民間セクター)と公共部門、そして市場化されていない私的分野の3つから成り立っている。一般の経済的な「国力」を示すGDP(国内総生産)などの指標は、前二者によって生み出された経済的な「付加価値」を1年、あるいは年の四半期ごとに集計した数字である。この計算の中では、市場を通さない活動によってもたらされる満足度は参入されない。経済発展によって、例えば家庭内の私的活動(家事とか育児など)の一部が、外部市場を通して調達された労働力に代替され、「市場化されること」によってGDPが大きく膨らむという現象が起こる。従来は家庭内(市場外)の活動とされてきた食事や衣服の縫製が外食や既製服の購入という形をとることによって、これまで家族・友人との好意や必要な交換で済ませていたサービス(用役)が、市場で購入されるという形に変わってくるのである。自宅の庭で飼っていた鶏を「絞め」たり、その卵が食卓にのる、という生活をしている人は近年ほとんどいなくなった。今や、すべての食料は市場で購入される。そしてその市場取引によって発生する付加価値は、国民所得計算に算入されるのである〉

 長々と引用してしまったが、ここで口をはさみたいことは、ひょっとしたら著者とはちがう感慨で、こういう商品世界がマクロ的かつミクロ的に世界中にひろがったのは20世紀以降、とりわけこの50年ではないかという点である。
 子どものころ、家の中での仕事はいまよりもっと多かった。ご飯もかまどで炊いたし、風呂も段ボールや木っ端でわかしていた。テレビやゲームソフトはなかったけれど、原っぱでキャッチボールなどをして遊んでいた。舗装されている道路は少なく、自動車はあまり走っていなかったが、道にはいまより人通りが多く、夏の夕べになれば自宅の前で将棋を指したり、角力をとったりするような生活だった。
 確かに生活は貧しかったにちがいないが、かといってあまり不自由は感じなかった。
 だから商品世界があたりまえになっている、現在のあたりまえが、どこかほんとかなという気がしてならないのだ。もちろん進歩を否定するつもりはない。
 商品世界をコントロールする国家の役割がますます重要になっているのは、以前の共同体が壊れてしまった代償があまりにも大きいという見方もできる。国家は商品世界の拡大をあおるいっぽうで、その代償を支払うことを求められている。いくら小さな政府といっても、経済成長と国家の膨張は裏腹の関係にある。その両者のバランスがこわれるときに社会的緊張が生じる。
 商品世界には経済のルールがある。信頼にもとづく取引といってもよい。スーパーやコンビニでほしい品物を買うときも、会社で働いて給料をもらうときも、こうしたルールを無視するわけにはいかない。こうしたルールに違犯すれば、人は現代社会ではほとんど生きていけないだろう。
 商品世界が発展してきたのは、発展してきただけの理由がある。それは単純に否定すべきものではないが、いっぽうで、それを手放しで肯定すべきだとも思えない。ちょっとへんな感想になってしまったが、そんな立場から『戦後世界経済史』を少しずつ読んでみたいと思っている。

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haiyuza-labo

だいだらぼっち 様

はじめまして。劇団俳優座制作部と申します。
この度は俳優座ラボ専用ブログにご訪問ありがとうございました!
ラボ公演とは劇団俳優座の稽古場で行われる芝居で、小規模ながらも様々な試みを実行し、多くの方々から好評をいただいています。
ご興味がございましたら、ぜひご覧いただければと思います。
ブログもこれから随時更新していきますので、今後とも何卒宜しくお願い致します。
by haiyuza-labo (2011-01-24 11:52) 

だいだらぼっち

コメントありがとうございます。サラリーマン時代はなかなか演劇を見る機会がなく、年を取ってからはだんだん外に出るのがおっくうになってしまいました。でもブログを拝見すると生き生きと楽しそうなご様子で、ぼくも一度舞台を拝見したいと思うようになりました。
by だいだらぼっち (2011-01-30 07:35) 

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