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猪木武徳『自由の思想史』を読む(1) [本]

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 けっしてやさしくはない本である。
 もともと雑誌『考える人』に連載されていたときのタイトルは「自由をめぐる八つの断章」となっていた。それが単行本化されるさいに『自由の思想史』とあらためられ、「市場とデモクラシーは擁護できるか」というサブタイトルがつけられた。
 これをみるかぎり、市場とデモクラシーは擁護できないという答えがでてきそうだが、勝手な思いこみはやめておこう。
 著者もいうように、自由とは何かをめぐって、「堂々めぐり」を重ねた論考といってよいが、どちらかというと、全体のトーンは自由への懐疑に貫かれているようにみえる。
「一学徒が人間精神の自由、政治経済体制としての自由の問題を、個人的な思い出をまじえて記した回想の記」というのが、本書にたいする著者のスタンスである。
 よく理解できないかもしれない。誤読の可能性もある。
 それでも、何回かにわけて読んでみたい。
 まず第1章。
 現代社会は自由民主主義(リベラル・デモクラシー)のうえに成り立っている。さまざまな考え方をもつ人びとが、一定の社会序列のなかで生活しているが、そこでは対立が日常茶飯事として発生する。
 しかし、その対立を暴力的に抑えるのではなく、たがいの考え方を尊重し、なんとか折り合いをつけようとするのが、自由民主主義といえる。
 これが出だしである。
 著者はもちろん、自由民主主義体制を否定しているわけではない。
 1970年に当時まだフランコ独裁体制下にあったスペインを旅して、監視社会、警察国家を経験したと書いている。そこには、自由の制限、言いたいことが言えない社会、やりたいことができない社会があった。
 1930年代にジョージ・オーウェルは、国際義勇団に参加して、スペインで戦った。それはスペインの自由を守るためだった。
 オーウェルにとって、自由とは「意識の領域を拡大すること」。
 しかし、自由にそれほど重い価値があったのか、と著者は疑う。もし、社会が多少でも豊かになれば、自由など少しくらい制限されてもいいのではないか。
 自由があるのはまさに不自由があるからだ、ともいう。仕事もしないで、毎日気楽に遊んでいるのは自由かもしれないが、それはどこかむなしいのではあるまいか。
「制約あるいは規則のなかで自由に生まれる行為が、『自発性』『創造』『多様性』を生み出す」と、著者は論じる。
 縛られているからこそ自由がある。自由はややこしい。
 哲学者のアイザイア・バーリンによると、自由の定義は200以上ある。しかし、大きく分けると、「消極的自由」と「積極的自由」とがあるという。
「消極的自由」とは、いわば「干渉からの自由」、「権力の強制からの自由」である。
 これにたいし「積極的自由」とは、独立自尊としての自由、あるいは自己決定の自由だ、と著者は解説する。
 いっぽう経済学者のハイエクは、市場は政府の干渉を排して、自由で公正であるべきだと唱えた。
 なぜなら「自由市場で成立する価格が、合理的な経済行動にとって必要不可欠な情報を提供しつつ調和と秩序をもたらす」からである。
 市場が自由であるべきなのは、そこでなされる競争が、財の質を向上させ、人びとの選好の幅を増やし、生産技術を向上させるからだという。
 そうしたことは、上からの決定によってはなしえない。
 自由とは権力による独善に従うことなく、多くの人びとが互いを尊重しながら、知恵を出しあい、互いをより高めていくプロセスを指している。
 だから、自由は鋭く社会主義と対立する。
 しかし、自由社会にも思わぬ陥穽がひそんでいる、と著者は指摘する。
 それは、いわば政府の甘い誘惑である。
 政府から経済的便宜をちらつかせられれば、人びとは容易に独立自尊の立場を捨てて、権力になびいてしまうかもしれない。
 国家には国家の役割がある。しかし、人には「個人の尊厳」が備わっている。
 人は自由な意志によって国家に協力するかもしれない。だが、人は精神において国家の奴隷になることを拒否する権利がある。
 それが自由のもつ意味だ、と著者は主張しているようにみえる。

 きょうはもう少し先まで進む予定でしたが、第1章でストップしてしまいました。
 パソコンのOSをバージョンアップしたら、ワープロソフトが固まってしまい、仕方なくマイクロソフトのoffice 2016 for Macをダウンロードしたのですが、これがひと仕事でした。そのあともちょっとしたトラブルがあって、こちらの頭がすっかりダウンしてしまいました。まったく、パソコンはジイサン泣かせです。
 つづきはまた。次回はもう少し先まで進むつもりです。でも、梅雨時のようにすっきりしない本ではあります。

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