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春名幹男『ロッキード疑獄』を読む(1) [われらの時代]

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 立花隆はこう書いている。
「ロッキード事件は裁判によって明るみに出される部分より、関係者の沈黙によって永遠に闇の中に葬られた部分のほうがはるかに巨大なのである」
 ほとんどの人は、1976年に発覚したロッキード事件を田中角栄による収賄事件と思いこんでいる。だが、それはほんの氷山の一角にすぎない。立花隆のいうように、この事件の闇は深いのである。
 本書『ロッキード疑獄』の著者は『秘密のファイル』などで知られる国際ジャーナリスト。共同通信ワシントン支局長や特別編集委員を歴任し、テレビでもおなじみだが、15年がかりの執念で執筆した600ページ近い本書では、知られざるロッキード事件の隅々に光をあて、はじめて事件の全容をあきらかにした。そこから浮かびあがるのは、日米安保体制の利権に巣くう黒いネットワークである。
 それでも、この事件では、なぜ田中角栄ばかりに注目が集まったのだろうか。黒幕とされた児玉誉士夫とそのルートにほとんど捜査がおよばなかったのはなぜか。そこには、何か政治的な意図のようなものすら感じられはしないか。
 昔、文明子(ムン・ミョンジャ)の『朴正熙と金大中』(2001)という本を編集していたときに、あっと思う一節にぶつかったことがある。
 文明子は韓国系の女性ジャーナリストで、長くホワイトハウスの取材を担当していた。金大中拉致事件をいち早く伝えたため、韓国中央情報部(KCIA)にねらわれ、アメリカに政治亡命した。
 その彼女があるとき、キッシンジャー国務長官にこう尋ねた。
「ヘンリー、ロッキード事件もあなたが起こしたんじゃないのですか?」
 するとキッシンジャーは「オブコース(もちろんだとも)」と答えたというのだ。
 彼女によると、キッシンジャーはアメリカを差し置いて中国と国交を結んだ田中角栄を「あまりにも生意気」と考え、「田中程度なら、いつでも取り替えられる」とうそぶいていた、と彼女は書いている。
 ちょっと眉唾なところもある。というのも、1976年にロッキード事件が発覚したときには、田中角栄は金脈問題で、すでに失脚していたからである。
 はたして、このキッシンジャーの発言はほんとうなのか。それとも、それは彼女の創作なのか。もし、ほんとうだとしたら、キッシンジャーはロッキード事件の暴露とどのようにかかわっていたのか。
 キッシンジャー発言の謎は、その後、長いあいだ、ぼくのなかでわだかまっていた。
 そして、本書によって、キッシンジャーがロッキード事件を利用して、田中角栄を政治的に葬ろうとしたのは事実であることをはじめて確認することができた。さらに、キッシンジャーがなぜそんなことをしたのかという謎もようやく解けたのである。
 そこでは日米間のすざまじい政治的暗闘がくり広げられていた。

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