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ぼくの「いける本・いけない本』(10年3月〜9月) [本]

今回もあるアンケートに答えて、ことし3月〜9月の「いける本・いけない本」を選んでみました。
それにしても、本を読んでいないことがわかります。
いける本はいけない本でもありうるし、いけない本はいける本でもありえます。
要するに勝手な言い草なので、そのあたりはご寛恕のほど。

■いける本
○リシャルト・カプシチンスキ、工藤幸雄、阿部優子、武井摩利訳『黒檀』(河出書房新社)
 最初は冒険だった。それが絶望に変わり、最後は深い愛に包まれる。新聞やテレビをみても、アフリカのことはわからない。ほんとうにアフリカを知りたいと思うなら、この本を読むしかない。アフリカ人とは「情け容赦を知らぬ自然との戦いに明け暮れる人である。生きながらえるという事実それだけで、最大の勝利だ」と著者は書く。アフリカはけっして遠くない。それは初源の地なのだ。
○三浦國雄『朱子伝』(平凡社ライブラリー)
 伝記はこう書かれるべきだといっていいほどの名作。江戸儒学のイメージから朱子は融通のきかない堅物とみられがちだが、そうではない。19歳で科挙に合格し、50年間官位にあったのに、実際に役所勤めをしたのはわずか9年と40日。それだけでもなかなか豪傑と尊敬に値する。儒学は教養や出世の道具ではなく、まさに人格そのものだった。
○鶴見俊輔『竹内好 ある方法の伝記』(岩波現代文庫)
 ことしは竹内好の生誕百年にあたると知って、少し驚いた。自分がそれだけ年をとった証拠でもある。ここにはいままで想像したことのない竹内好がえがかれている。傷ついた魂がふるえ、もだえているのだ。どこまでも信じること、どこまでも疑うこと、発言すること、沈黙すること、こうした格闘の場からしか思想は生まれない。
■いけない本
●柄谷行人『世界史の構造』(岩波書店)
 マルクスの唯物史観を交換関係論によって再構築した観念論の最たるもの。消費者運動を中心とするアソシエ−ショニズム(ほんらいの社会主義、つまり資本と国家への対抗運動)、世界共和国をめざす世界同時革命、国連中心主義、互酬にもとづく世界システム、どれもがまゆつばだ。
●平川克美『移行期的混乱 経済成長神話の終わり』(筑摩書房)
 少子高齢化、大不況、自殺、殺人、どれをとっても現在は有史以来の「移行期的混乱」のなかにある。経済成長がなくても、人口が減少しても、何とかうまくやっていける社会を「考想」すべきだと著者はいう。そのとおりだと思う。それがすっきりいえないところに、もどかしさがある。
●村上春樹『1Q84』BOOK3(新潮社)
 あまりにも話がうますぎる。おそらく、これはこうなるだろうなと思っていたとおりに話が進む。そして、最後はできすぎのハッピーエンド。しかし、これでは終わるわけがない。こうして話はエンドレスにつづき、読者は次がいつでるのかとやきもきする。これは「いけない本」にちがいない。

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べっちゃん

村上春樹は大体読んでいますが、1Q84 BOOK3についてはまったく同感。1、2で気を持たせておいて、それは無いだろう、がBOOK3です。大風呂敷を広げすぎて収集がつかなくなったのでしょう。
by べっちゃん (2010-10-31 09:16) 

だいだらぼっち

コメントありがとうございます。ぼくはあまり読んでいないのですが、好きなのは『象の消滅』。これを読むと、村上春樹は長編より、むしろ短編の名手だという気がします。
by だいだらぼっち (2010-11-07 17:14) 

みなみのみなみ

先生こんにちは。

先日はありがとうございました。朝日での講演は絶妙な距離感と、孝行息子に優しく話しかけられ、さとされているような気持ちになる細見マジックの時間でしたね。先生、ずるいよ。いえ、すごいよ。で、楽しいひとときでした。
読んではいけない本なんて刺激的なタイトルですね。村上春樹の「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の訳文が好きなのと、平川克美さんと内田樹先生の「東京ファイティングキッズ」を数年前に読んで以来、彼のビジネス視点と提案に注目していますので、読んではいけないおすすめを読んでみますね。このブログに思わず反応してしまいました。これってー細見マジックですよね?

先生お元気でいて下さいね。これはお願いです。
   
                    三宅みさえ
by みなみのみなみ (2010-12-17 00:25) 

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