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尖閣よりこわいこと [時事]

 このところ忙しくて、テレビを見る時間もありません。25年ぶりに台所を改装して、いろいろと後片付けに追われていたことや、まもなく出版される翻訳の最終チェックをしなければならなかったこともあって、何だか気持ちに余裕がありませんでした。
 それでもニュースなどを見ると、最近は尖閣諸島や北方領土の問題でもちきり、政府民主党の対応のまずさが連日報道されているようです。領土問題というのはむずかしく、そう簡単に解決することは不可能だと思います。最終的には両国間で条約を結んで、領土の帰属を確定する以外にないのですが、これまでの歴史をみると、この問題を解決するには、相当の政治力を発揮するか、政治の延長としての戦争を発動するしか方法はありませんでした。
 しかし、政治力には期待できないし、まして戦争はしないほうがいいに決まっていますから、当面、このふたつについては──竹島の問題も残っていますが──ここが日本の領土であることを主張しつづけること、とりわけ尖閣については実効支配を強めること、それに相手国の出方に対する警戒を強めることくらいしか打つ手がないと思います。
 それにしても領土問題というのは、そこが150年ほど前までアイヌや、沖縄人・台湾人の行き来する地であったことを考えると、日本、中国、ロシアどの国にとっても、どこかさもしいところがありますね。国益とやらを振りまわすまえに、互いにみずからを鏡にうつしてみることがだいじかもしれません。
 で、領土問題やらAPECやらで、このところマスコミが連日大騒ぎしているなかで、先日たまたまNHKで日本の借金はなぜふくれあがったのかという報道番組を見たのを思いだしました。ぼく自身は、連日の過熱したニュースより、ほんとうはこちらのほうを心配しています。
 番組の趣旨は歴代の事務次官に、なぜ日本の借金がここまでふくれあがったのかを聞くということでしたが、その話をまとめてみると、要は社会保障費が増えたとか、景気が急に悪化したとか、アメリカの圧力に負けたとか、政治に振りまわされたとか、国民のレベルが低いとか、そういうことでした。事務次官の任期はほぼ2年。だからどの官僚もその期間を何とかやりすごすだけで、あとは野となれ山となれという感じを受けました。その結果が積もり積もって国だけで900兆円近い借金です。その勢いはまだ止まりそうにありません。
 そして不思議なことに、この借金をどうするかについての議論は、政府内でも、まともにおこなわれているように思えないのです。たしかに消費税を10パーセントに引き上げるという議論はあります。ただし、それをやったところで、国債の新規発行が必要なくなるかといえば、そこまではむずかしいというのが、ほんとうのところではないでしょうか。たぶん財政支出を大幅削減したうえで、消費税を20パーセントくらいにしないかぎり、予算のバランスはとれないというのが真相ではないかと思います。
 民主党は「事業仕分け」とやらのパフォーマンスで、しきりに大向こうをねらった点数稼ぎをしようとしていますが、財政のムダを洗い直すことはだいじとはいえ、これによって大幅な財政支出のカットが期待できるとは考えられません。それよりも、これは消費税増税に向けての「仕分け」ならぬ「言い訳」づくりといえるのではないでしょうか。
 そして、はっきり言いますが、たとえ消費税を導入しても、日本の借金問題はそう簡単には解決しないのです。なかには、日本は借金があっても何も問題はないという人がいます。お金のあまっている人が国債を買って、国の借金を支えているのだから、これ以上借金が増えるのは問題としても、現状が維持できれば、経済的には何の不安もないというのです。
 これはほんとうかもしれません。しかし、財政的にはかなりの綱渡りを必要とするでしょう。単純化していえば、銀行や郵貯も含めて、だれもが国債が満期になったときに、それを崩さないで、また同額の(できればさらに多額の)国債を買うようにすればいいのです。しかし、それがいつまで可能なのかは知るよしもありません。国債を崩して老後の資金にあてる人もいるでしょうし、海外旅行に行く人もいるでしょう。経済状況が不安になって、だれもが一気に国債を引きだせば、それこそ国全体がパニックです。いずれにせよ、政府がいま考えているのは、借金で借金を返すというテクニックだけという気がします。つまり例によって問題の先送りです。
 インフレ誘導や社会保障費の削減を唱える人もいます。しかし、これも度を超すと、社会は大混乱します。歴史の大事件は、国の借金から生じているといってもいいくらいです。ヒトラーが登場した背景には、ドイツの巨額の賠償金とハイパーインフレがありました。明治維新のときも幕府・藩とも借金まみれでした。
 菅さんは突然TPPなるものをもちだして、新たな「開国」が必要だなどと言いだしていますが、「開国」が江戸幕府の「瓦解」につながったことを思えば、統治能力を失った民主党政権の瓦解も近いのかもしれませんね。
 何はともあれ、ハイパーインフレやデフォルトは避けたいものです。
 番組を見て感じたのは、民主党にしても自民党にしても、当面のハエを追うのに精一杯で、長い将来のことを考えていないということでした。国の借金をいっぺんにチャラにするうまい手はありません。しかし、このまま見て見ぬふりをしていると、そのうちたいへんなしっぺ返しをくらうことはまちがいありません。
 昔、日露戦争が終わったとき、当時の桂太郎首相は、ロシアから賠償金がとれなかったために積み重なった国の膨大な借金(約20億円。現在の貨幣価値にすると約10兆円[わずか!]で、そのほとんどが外債でした)を片づけるために、約30年間で公債の全額を返還するという長期計画を立てました。この計画は紆余曲折があって、いろいろ評価はあるのですが、桂太郎の心意気をいまの政治家にもくんでもらいたいものだと思います。
 もっとも、現在の借金は日露戦争後とは比較にならぬほど多いので、どの政治家もそれをどうしたらいいか、こわくて言い出せないのかもしれませんね。まさに、あとは野となれ山となれ、わが亡きあとに洪水よきたれ、です。
 公債については、日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一が、次のように語っています。

〈非常の場合に一時に多額の国費を要するときにおいて、公債の価値あるはいうまでもなく、国家経済の発達を助くるの効は実に大なるものである。しかしながら公債はこれを処置するの道を誤り、整理の方よろしきを得ざるときは、国運の発達を害することけっして少なからず、換言すればすなわち鋭利なる利器であると同時に恐るべき凶器であることを忘れてはならぬ〉

 そのとおりだと思います。いま必要とされるのは小手先の政権運営、あるいは事なかれの職務遂行より、国の借金問題解決を含めて30年にわたる経済ビジョンであることはまちがいありません。
 そんなことをうつらうつら思いました。

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