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『超マクロ展望 世界経済の真実』から学ぶこと(1) [時事]

 水野和夫・萱野稔人のこの対談には、いくつか目からうろこの落ちる「真実」が語られている。へえ〜と思ったところを何回かにわけて紹介しておきたい。
 最近の経済について、水野が指摘するのは資源価格の高騰だ。新興国の台頭によって、先進国はいままでのように資源を安く手に入れることができなくなった。
 水野はこう述べている。

〈リーマン・ショックの前、日本では02年から07年の6年間にわたっていざなぎ景気を超える長期の景気拡大が実現しましたが、にもかかわらず国民の所得は増えませんでした。それは交易条件が悪化したことで原材料費が高くついてしまうようになったため、売り上げが伸びても人件費に回せなくなったからです〉

 原材料費が高くなっても企業はそのコストを製品に上乗せすることができず、それで人件費を削らざるをえなくなったというわけだ。90年代半ばから派遣社員や契約社員が増えるのは、そのためだ。
 70年代初めの石油ショックのときとちがって、原材料費の高騰を製品価格に上乗せできなくなったのは、新興国の台頭にともなうグローバルな競争の激化が背景にある。そもそも原材料費が高騰したのも、新興国が台頭した波及効果ともいえる。
 ふり返ってみれば、90年代というのは、日本全国で昔ながらの商店街が軒並みにシャッターをおろし、多くの中小企業が生き残れなくなり、農業では減反政策が推し進められるといった時代だったという印象が強い。大企業でもリストラが進んだ。
 
 先進国の実物経済に元気がなくなり、それに代わってのしてきたのが金融経済だった。
 世界の余剰マネーがウォール街に集まるという金融システムを築くことで、アメリカは「金融帝国」となったと水野は指摘する。そのマネーがいっぽうで新興国に流れ、もういっぽうでアメリカ国内のITバブルや住宅バブルを生んでいくことになった。
 石油価格の決定権もOPEC(石油輸出国機構)から離れて、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物市場のほうへと移っていく。江戸時代、大坂の先物米市場が、日本全国の米相場を決めたのと同じだ。石油はこうして金融商品化されたと水野は指摘している。
 9・11後のイラク戦争について、萱野がおもしろい指摘をしている。アメリカがイラクに戦争を仕掛けたのは、何もイラクの石油がほしかったからではなく、WTIに代表される石油価格決定システムを守るためだったというのだ。フセインはアメリカ中心の石油価格決定システムから離脱しようとしていた。
 萱野はこう話している。

〈要するに、イラク戦争というのは、イラクにある石油利権を植民地主義的に囲い込むための戦争だったのではなく、ドルを基軸としてまわっている国際石油市場のルールを守るための戦争だったんですね〉

 このあたりの指摘もおもしろかった。
 しかし、アメリカの「金融帝国」がほころびはじめたことは、リーマン・ショック以来の金融バブルの崩壊をみてもあきらかだろう。
 そのあたりのことを萱野はこう話している。

〈そうですね。アメリカは中国やサウジアラビアなど、新興国や資源国に国債を買ってもらわないと自分たちの財政政策がまったくできない状況になっていますから。しかもここまで赤字が増えてしまうと「買ってください」と言っておきながら他方で「おれのルールに従え」とは言えなくなってきますよね。では今後、だれが新しいルールの策定者となっていくのか。ルールを策定するということは、要するに自分たちに有利なルールを策定するということです。それがEUになるのか、中国になるのか、あるいはEU・中国の連合になるのか〉

 先のことはわからない。
 だが、いま言えることは日本の経済が、新興国の中国と、金融帝国のアメリカに挟み撃ちされて、もがいているということである。

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