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『戦後世界経済史』(猪木武徳著)を読みながら(11) [商品世界論ノート]

 本書を読むと、1980年代から90年代にかけて、世界中はマネーによって翻弄された感があります。このころからアメリカは世界の余剰マネーを集めて、世界に配分し、そのもうけをかすめる金融帝国に変身していたことがわかります。
 最初はオイルマネーでした。このオイルマネーは70年代末から80年代にかけて、アメリカに集まり(つまりドルとして蓄積され)、途上国に流れていきます。途上国はこれによって自国の産業発展をはかろうとしたわけです。最初はうまくいきました。
 ところが79年の第2次石油ショックが訪れると、世界的な不況によって途上国では輸出が減退し、対外債務の利払いだけがのしかかってくることになります。これを解決するために、中南米などの途上国は、さらに借り入れをおこないました。借金のために借金をするのですから、そのいきつくところは目に見えていますね。けっきょくは借金で首が回らなくなり、不況のどん底におちいりました。
 90年代にはいってからのアジアの通貨危機も同じです。このころすでに日本ではバブルがはじけています。危機の様相は国によって少しずつちがいます。タイのバーツはドルと連動していたため、1995年ごろのドル高円安によって、急速に国際競争力を失い、中国と太刀打ちできなくなり、借金が返せなくなって、一挙に通貨危機におちいるのです。
 韓国の場合は少し事情がちがいます。90年代以降、韓国は過剰ともいえるほどの積極的な海外投資をおこないます。しかも、その投資の4割を政府が保証していたのです。そして、けっきょく無理な投資が失敗して、それが政府にはねかえり、「国家破産」に近い状態を招くことになります。こうした投資を後押ししていたのも、金融帝国アメリカに集まる余剰マネーだったわけです。
 世界中が猛烈な競争に巻きこまれていました。人のふところをあてにした無理な投資が失敗して、たちまち苦境におちいるという構図は、まだあざ笑うこともできます。しかし、問題はそのしわ寄せが、まじめに働いている人のほうにやってくることでした。
 1989年から91年にかけては歴史を揺り動かす大きなできごとが起きます。ベルリンの壁の崩壊からはじまって、ソ連が消滅するにいたったのです。
 著者は社会主義には根本的な欠陥があるといいます。

〈社会主義計画経済には、個人的な「働きがい」というものが全く考慮されていなかった。努力を評価し報酬に結びつける「非人格的な」市場のような装置が欠落していることが最大の、そして致命的な欠陥なのだ〉

 ソ連の社会主義は軍事にシフトしており、公共の基盤や民生部門がおろそかにされていることも問題でした。
 社会主義批判となると、著者は思わず力こぶがはいり、さらに次のように指摘します。長くて、くり返しになるかもしれませんが、引用しておきましょう。

〈社会主義の計画経済システムの破綻は何を意味していたのだろうか。ひとつは、経済社会のなかに公有・公営・公共的消費といった公的領域は確かに存在するが、使用・収益・処分を自己責任の原則で行う「私的所有」の機能が根本的に重要だということが再認識されたこと、競争をベースにした労働への報酬制度と勤労意欲の関係が生産システムを作り上げる場合きわめて重要なこと、言い換えれば、労働には「励み」となる適度の報酬が必要なこと、そして計画経済がさまざまな経済環境の変化に対応する能力において著しく劣っていたことが明らかになった。さらに社会主義体制は変化の対応能力の鈍い膨大な官僚群を生み出しただけでなく、党エリートたちの特権にからむネポティズム・不正・腐敗が抜き差しならないところまで進展していた〉

 価格が政治的に決定されることが、巨大なロスを生み出すことも指摘されています。
 社会主義の問題は、政治的決定と経済的判断が分離されていないこと(つまり民間企業や個人商店、個人農家などが認められていないこと)、しかも、その政治が共産党の一党独裁によって反対派を排除しながら恣意的におこなわれている(つまり思想や信条、信仰の自由のない)ところにあります。
 だからといって、資本主義がすばらしいというわけではありません。人間のつくる制度には多かれ少なかれ欠陥があり、それらは時に応じてみなおされなければならないでしょう。社会(相互扶助)も資本(自立)も必要というのがほんとうのところではないでしょうか。
 ソ連の社会主義体制が崩壊した理由ははっきりしています。ひとつは民族主義の台頭によって、ロシア中心の「帝国」を維持できなくなったこと、もうひとつは軍事力はともかくとして、世界の経済を動かしている国際的競争に立ち後れてしまったことです。
 それもまた新自由主義という嵐がおよぼした結果だったのかもしれません。

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