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『現代社会の理論』(見田宗介)を読む(2) [商品世界論ノート]

第2章では「ゆたかな社会」の「限界」、つまり環境や資源の問題が論じられている。資本主義が旧来の市場という限界を突破して、情報化・消費化をバネにして恐慌のない「ゆたかな社会」を築いたかのようにみえた背後には何が進行していたのだろう。
ここで最初に紹介されるのはレイチェル・カーソンの『沈黙の春』である。化学薬品の散布が鳥や虫や雑草を「沈黙」させ、無気味な春の訪れをもたらしたというのは、寓話ではなく現実の光景だった。
ぼくにとって、そのなかでとりわけ興味深かったのが、殺虫力のある農薬が、もともと化学兵器の研究から生まれたという指摘だった。
軍事兵器の背後には常に排除と独占の欲望がちらついているが、これが自然にたいして発動されると、一見合理的な光景の向こうに、これまでみたこともないすさみが出現することになる。
アメリカではマメコガネムシがたまたまJapanese beetlesと呼ばれていたため、天敵のように駆除されたというくだりは、読んでいて背筋が寒くなった。害虫を駆除する作業が徹底的に推し進められ、農業が「商品経済システムの中に引き入れられる」ようになったと見田は記している。
原発にしてもコンピューターにしても、現代の技術の多くが軍事と結びついていることは、忘れてはならない視点だろう。
それともうひとつ。
レイチェル・カーソンがえがいたのは、人間と自然への薬品の副作用だといってよいが、考えてみれば、すべての商品には効用と同時に副効用が含まれているのではないだろうか。
テレビやパソコン、掃除機や冷蔵庫にしても、われわれはひたすら便利さを感じているけれども、実はその裏には意外と気がつかないマイナス作用がひそんでいることも考えられる。それらは家族の会話を奪い、目を悪くし、漢字を書けなくし、記憶力を減退させ、運動力を衰えさせといったもろもろの現象を引き起こしている可能性もある(これはまったくぼくにあてはまる)。
商品の魅力は商品の魔力でもあるのだ。

著者の指摘によれば、「ゆたかな社会」と裏腹に、われわれは「水俣」という教訓ももっている。チッソ水俣工場が長年にわたり海に放出した有機水銀が、多くの人びとに中毒性疾患をもたらした記憶はいまだになまなましい。水俣病の原因は早くからわかっていたのに、政府はそれをずっと放置し、被害の拡大を招いた。生産効率の名のもとに、人命がないがしろにされていたのである。
水俣病は、商品が大量につくられるさいの副産物が、有毒物質として外部にそのまま放出され、近隣の人びとに被害をもたらしたという典型的なケースだが、もちろん、こうした例は水俣にとどまるものではなかった(原発事故も同じケースだ)。

〈水俣の大規模な汚染公害の背後には、日本における現代の大量消費社会の形成の局面として、「高度経済成長」を支えるに足る資本と労働力と市場を創出するための、農業/農村の近代化と地域工業開発を二本の支柱として連動する国土の全域的な解体と再編の強行があった〉

ゆたかになるというのは、ともかくもピカピカの商品が身の回りにあふれることのように思える。そのような商品が大量につくりだされ、大量に消費されるのが「ゆたかな社会」だといってよいだろう。しかし、そうした商品世界をつくるために、これまでの村や町、家がものすごいスピードで変貌を強いられたのも事実である。見田のいう「国土の全域的な解体と再編」とは、このことを指している。
現在の情報化・消費化社会には、欲望がさらなる欲望を引き起こす「欲望のデカルト空間」があり、「消費のための消費」という転倒があり、そうした無際限の追求が、深刻な環境問題や資源問題を引き起こしたと著者はいう。
高度大衆消費社会の結果は、われわれに資源・エネルギー問題というツケをつきつけている。経済成長がつづけば、アルミ、銅、鉛、水銀、石油をはじめ、多くの資源が枯渇し、その前に急激な価格高騰が生じるのは目に見えている。
「20世紀の後半にこの社会が経験してきた形の『成長』を、次の半世紀に同じ仕方で継続することは物理的に不可能である」と著者は断言する。
金鉱や石炭の発見などでわきたった「ブームタウン」が、それらがなくなればたちまち「ゴーストタウン」になるのは、周知の事実だ。
こうしたことからわかるのは次のことだ。
大量生産、大量消費の前後には、大量採取、大量廃棄のプロセスが隣接している。これはイデオロギーではなく、まったくの事実にほかならない。
商品世界の構造は、こうした全プロセスを見ることによって、はじめて理解することができる。
本書第2章が教えているのは、そうした事柄なのだと思われる。
できるだけ軽く書こうと思っていたのに、きょうも何だか重い話になってしまった。ご寛恕のほど。
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