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南九州あちこち──九州の旅から(3) [旅]

 5月下旬。指宿シーサイドホテルにいます。台湾からきたという年配の人と日本語で話しました。団体できたそうです。
 けさも残念ながら、曇りなのか、それともPM2.5の影響なのか、どんよりしてあまり眺望がよくありません。
 8時半にホテルを出発し、30分ほど走って長崎鼻にやってきました。薩摩半島の南端です。長崎鼻という地名はずいぶん多く、全国に広がっています。銚子にも長崎鼻がありますね。長崎鼻というのは、海に向かって、鼻のように長く先が伸びているという意味なのでしょうか。よくわかりません。
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 九州の南端、佐多岬は本州の南端でもありますが、きょう訪れるのは無理なようです。そこでせめて薩摩半島の南端と西端を訪れることにして、もう来られないかもしれない南九州をきわめたことにしよう。そう、つれあいと話していました。
 今回訪れてみて、薩摩もまた神話と伝説の地との思いを強くしました。長崎鼻は竜宮伝説発祥の地で、『古事記』に出てくる山幸彦の物語は、このあたりを舞台にしているという説もあるようです。例によって、ホントかウソか、観光用の話か、それはわかりません。現にここには竜宮神社なるものもつくられています。
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 灯台の先にある溶岩流が流れてできたとおぼしき磯に下りてみました。天気が悪いとはいえ、対岸にうっすらと開聞岳の姿が浮かび上がります。竜宮は琉球のことだったのかもしれません。あるいは、そうではなく見たこともない異国のことだった可能性もあります。いずれにせよ、海と山、海人と山人が出会うは伝説が生まれてもおかしくない場所だと感じた次第です。
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 次にやってきたのは牧聞神社(ひらききじんじゃ)。うしろに、うっすらと開聞岳の山容がながめられます。牧聞=開聞=ひらききと考えれば、この神社は古代に開聞岳を神体としていたということが、容易に推察されるわけです。薩摩一宮で、山彦海彦伝説とも密接にからみ、近くには、立ち寄れなかったものの山幸彦と豊玉姫が出会ったとされる玉乃井も残されています(いまさらながら、東京向島にあった玉の井の、地名の由来に気づきます)。
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 枚聞神社の主神は、国家神道の影響を受けて、オオヒルメムチノミコト、すなわち天照大神とされていますが、梅原猛は『天皇家のふるさと日向をゆく』のなかで、もともとの主神は豊玉姫の父にあたるワタツミの神ではなかったかと推察しています。
 われわれはここから九州最大の湖で、開聞岳のカルデラ湖でもある池田湖をかすめ、山中の難路を走って、海沿いの国道226号線に戻ります。坊津に着いたのは、ちょうどお昼ごろ。歴史資料センター「輝津館」を見学させてもらいました。ここに展示されている旧一乗院の涅槃図は一見の価値があります。
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 さらに見応えがあるのは、この高台から眺める坊津の風景ですね。写真では遠くに剣のような岩が霞んで見えますが、この岩は歌川広重の「六十余州名所図会」にも収められています(最近は安藤広重ではなくて、歌川広重というようですね。2代目広重の「諸国六十八景」にはもう少し引いた図柄が描かれています)。そのパンフレットをコピーしておきましょう。
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 坊津はとりわけ古代、中世に栄えた貿易港で、遣唐使船が立ち寄り、ザビエルが上陸した場所でもありました。琉球貿易の拠点でもありました。それが江戸時代の享保年間になると、薩摩藩によって突如、琉球との貿易が禁止され、琉球を経由した唐物もはいってこなくなります。
 おなかがすいたので、昼食をとろうと思い、博物館の人に、近くに食堂はないかと聞いたところ、きょうはお休みとのこと。代わりに同じ坊津でも秋目にある「鑑真荘」という店を紹介してくれました。すぐだと思ったら、これが大まちがい。車を30分ほど走らせて、たどりつきました。しかし、そのおかげで鑑真記念館を見て、鮮度抜群のうまい昼食にありつくことができたのでした。
 記念館の下に鑑真像があり、ここで記念写真を撮りましたが、とてもお見せできる代物ではありません。鑑真が博物館のある坊津の秋目に上陸したのはたしかです。そこで、港の写真をカメラに収めたのですが、どうにもくもっていて、さまになりません。昼食をとった鑑真荘の娘さんが、いつもはマリンブルーの海なのに、PM2.5のおかげで、と残念がってくれたのが、印象的でした。
 しかし、自宅に帰って、秋目を描いた絵の収録された文庫本を買っていたことに気づきました。それが『唐招提寺全障壁画 東山魁夷小画集』(新潮文庫)です。ここ秋目の光景は、じつに鑑真和上像の厨子絵に描かれていたのです。
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 われわれはここで、鑑真は何のために日本にやってきたのかという問題にぶつかります。
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