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『中国グローバル化の深層』を読む(1) [本]

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 中国については、どうしても好きか嫌いかという感情論でとらえがちです。
 大まかにいって、日本人の対中感情は、1980年ごろの好きから現在の嫌いへと大きく変化したといってよいでしょう。
 いま世の中には、さまざまな「反中本」があふれています。
 しかし、そうした感情論をひとまずおいて、冷静に現在の中国をどうとらえたらいいかを探るために、この本を読んでみることにしました。
 ちなみに、ぼく自身が中国にいちばん関心をもっていたのは、60年代後半から70年代半ばにかけての「文化大革命」のころでした。
 それ以降は、だんだんと中国に興味を失い、むしろ中国への批判を増幅させるようになって、中国という国を冷静にみる立場を失ってしまったようです。
 そこで、少し反省の意味をこめて、現在の中国に思索の錨をおろしてみようというわけです。
 まだ読みはじめたばかりです。それに例によって、ゆっくりとしか読めません。加えて、これから長い旅行に出かけるところなので、読書メモといっても、あいだがあいてしまいます。
 著者のデイヴィッド・シャンボーは1953年生まれ、アメリカのジョージ・ワシントン大学の教授で、中国問題の専門家だとか。
 本書の基本的な見方は、中国は大国として世界に大きな影響力をもつようになったが、現段階では世界の政治をリードする「世界(グローバル)国家」とは、とてもいえないというものではないでしょうか。
 本書は全体で8章にわかれています。

 第1章 中国のグローバル・インパクトを理解する
 第2章 中国のグローバル・アイデンティティー
 第3章 国際社会における中国の外交プレゼンス
 第4章 中国とグローバル・ガバナンス
 第5章 世界経済での中国のプレゼンス
 第6章 世界における中国の文化的プレゼンス
 第7章 世界の安全保障における中国のプレゼンス
 第8章 グローバル化した中国に対して

 目次を写していて気がついたのですが、これは世界のなかの中国というか、外からみた中国とういうか、つまり国際関係論として中国をとらえようという本ですね。
 外交、安全保障、国際経済が中心であって、共産党の支配体制やら中国国内における軍の動き、民族問題、人権抑圧、言論統制、経済格差、公害など内政にかかわる問題は、さほどとりあげられていないようにみえます。
 つまり、本書の課題は、グローバル・パワーとしての中国をどうとらえるかだといえるでしょう。とはいえ、外政が内政と表裏一体の関係にあることはいうまでもありません。
 前置きはさておき、頭の部分だけでも、とりあえず読んでみることにしましょう。
 著者は中国をこの20年間で「国際システムの周辺から中央に移ってきた」新興国ととらえています。
 その世界的な影響力は、ますます実感できるようになってきました。
 中国が世界進出を果たすことができたのは、1978年12月に中国共産党が改革開放路線を採用した結果だ、と著者は指摘しています。
 1980年代に、中国は世界に門戸を開きます。
 そして、1990年代にはいると、政府は企業に国外進出を促すことになります。同時に中国は経済面にかぎらず、軍事面、文化面などでも世界進出を試みるようになっていきます。
 近い将来、中国が世界を制するという見方にたいし、著者は懐疑的です。
 中国は国内に弱点をかかえているだけではなく、海外からも不信感をもたれているからです。
 中国が世界最大の人口をもち、世界第2位の経済を誇っていることはたしかです。しかし、中国はグローバル・パワーを有するにはいたっていない、と著者はいいます。
 中国の経済成長は国際的に高く評価されていても、政治体制の評価は低いといってよいでしょう。そのため、ほとんどの国際社会は、中国の台頭を不穏な思いで見つめている、と著者は指摘しています。
 中国のグローバル・アイデンティティーがつかみがたいのは、その国際的なイメージが分裂しているからです。国際的な問題解決に実務的にかかわったかと思うと、領土紛争で好戦的な態度を示したり、貪欲な資源獲得に乗りだしたりして、中国の動きにはよくわからないところがあります。
 ところで、中国共産党の外交政策を批判したり、人権問題にふれたりしないかぎり、中国国内での国際問題での議論は意外と活発だというのは意外でした。
 その議論は一見わかりにくいとはいえ、政府の見解を反映しているものも多く、国内政治と密接にかかわっているといいます。
 しかし、自国の利益を追求するときは別として、ある研究者がホンネをもらすように、中国は「外国の厄介事にはかかわりたくないと思っている」というのが実相ではないか、と著者はみているようです。
 鄧小平は、中国は世界の「先頭に立つべきではない」が、それでも「やることはやる」という方針を示したといわれます。
 現在、主流となっている考え方は「平和的台頭」論です。これは中国脅威論が高まるなかで、でてきた理論です。
 中国の研究者の多くは、世界は「一超多強」の状況にあるとみています。
 相対的に衰退しつつあるとはいえ、アメリカはいまも世界唯一の超大国であり、加えて、多くの強国が国際システムにかかわっているというわけです。
 つまり、一極集中であると同時に多極的。
 アメリカと中国がG2として世界を仕切るという考え方や、アメリカが衰退して世界が多極化するという見方は、中国でもまだ少数派だといえそうです。
 中国が責任ある大国として、世界のガバナンスにどうかかわるかという議論も出はじめています。これはどちらかというと、アメリカ側の要請によって提起された議論で、中国ではこの提案には、むしろ警戒感が強い、と著者はみています。
 これにたいし、中国は「和諧世界」、つまり調和ある世界を唱えて、いまのところ国際的責任論をかわしています。
 文化的なソフトパワーを強化しようという動きがあるいっぽう、アメリカの覇権に反対する立場を堅持しようという考え方も強いようです。
 中国の対外姿勢について、著者はそのいくつかの特徴的な考え方を挙げています。
(1)排外主義
 これは外の世界を不審の目で眺め、反米・反西欧を基調とする考え方で、立場としては、超愛国主義的といえるでしょう。
(2)現実主義
 これは予測不可能な国際環境に対応するために、国力を強化すべきだという、現在の中国では主流の考え方です。ここからはアメリカに自由に中国沿岸を航行させないよう、中国は強い軍事力を保持すべきだという主張も生まれてきます。
(3)主要国主義
 これは中国の外交は、主要国、つまりアメリカ、ソ連、EUを相手にすればいいという考え方です。とりわけアメリカとの協調関係を維持すべきだという立場です。
(4)アジア第一主義
 これは周辺諸国との関係を強め、北東アジアの安定を重視する考え方です。アジア第一主義の人びとは、米ロ欧や途上国との関係よりも、アジアとの関係をだいじにすべきだと考えます。
(5)グローバル・サウス主義
 これは途上国との協力関係を重視し、中国は途上国の利益を代弁すべきだという考え方です。国内のさまざまな問題にたいする欧米の圧力をはねつけるために、中国は途上国からの支援をうまく利用しようとしているとも考えられるでしょう。
(6)選択的多国間主義
 これはみずからの国家利益にかかわるかぎりにおいて、中国が国際的な問題への関与を少しずつ増やしていくというもの。国連のPKO活動や災害援助、アデン湾での海賊掃討などには参加するものの、イラク、リビア、シリア、アフガニスタンなどリスクの高い地域への関与は避けるという考え方です。
(7)グローバリズム
 これは中国が「責任ある大国」として、国際舞台でもっと活躍すべきだという主張です。国連中心主義の考え方ということもできます。

 このように、中国の対外姿勢には、さまざまな考え方があり、意見がまとまらないまま、めまぐるしく揺れ動いている、と著者はいいます。
 そのため、「中国の多次元にわたる、多方面の外交政策」がつづくというのが著者の見方ですが、いずれにせよ、外交が存在することは、未熟とはいえ「世界国家」であることのあかしといえるでしょう。
 このつづきは、しばらく先にということになります。

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