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ことしのベスト3 [本]

「神保町の匠」のアンケートで、「ことしのベストスリー」を選んでみました。
対象は人文書ですから、あまりおもしろくないかもしれません。
来週あたり、ほかの人の分もあわせて、webronzaに掲載される予定です。
来週から、いなかの高砂に帰るので、ブログはしばらく休み。そのため、早めにアップしてみました。

ことしも近縁の人を多く見送った。幽明のさかいがあいまいになりつつある。追想と残余。もう若いころのようなあせりはない。ゆっくり本を読む日々がつづいている。
○高橋順子『夫・車谷長吉』文藝春秋
車谷長吉の書くものに、ぼくは生まれ故郷、播州の光や音や匂いを感じていた。小説を書くというのは、崖から飛び降りるくらいすごいことだ。ましてや、小説家との結婚は、生半可な覚悟ではできない。著者は小説家に、あなたのことを好きになってしまいました、と手紙を書く。小説家からは、もし、こなな男でよければ、どうかこの世のみちづれにして下され、と返事があって、ふたりはともに寄り添う関係になる。それから極楽と地獄を往還する日々がはじまった。切ないのに笑える大きな愛の物語だ。
○栗田勇『芭蕉』(上下巻)祥伝社
当初、予定されていた「枯野の旅──旅に病んで」は書かれなかった(いつか書かれることを念願するけれど)。「おくのほそ道」をいちおうのしめくくりとして、10年にわたる連載が完結した。著者は芭蕉の行程に寄り添い、みずからの人生をふり返りながら、芭蕉の残した句を味わいつくす。そこには東洋思想や詩歌の精髄が流れこんでいただけではない。いわば永遠が閉じこめられていた。芭蕉は時空を超える。まさに畢生の大作だ。
○竹田青嗣『欲望論』(第1巻「『意味』の原理論」、第2巻「『価値』の原理論」)講談社
日本で生まれた世界的哲学書といってよい。オビにうたわれた「2500年の哲学の歴史を総攬し、かつ刷新する画期的論考」という惹句も、けっして大げさではない。独断論的普遍主義と懐疑的相対主義の不毛な論争を乗り越え、人間とは何か、世界とは何かという根源的な問いに迫る。世界を価値と意味のたえず生成変化する連関の総体としてとらえ、思考の停止を求める「暴力原理」に対抗して、新たな希望の哲学を立ち上げようとする。時間をかけて熟読すべき本だ。
○ほかにナオミ・クライン『これがすべてを変える──資本主義vs.気候変動』(幾島幸子、荒井雅子訳、岩波書店)、丹羽宇一郎『戦争の大問題──それでも戦争を選ぶのか』(東洋経済新報社)、イアン・カーショー『地獄の淵から──ヨーロッパ史1914−1949』(三浦元博、竹田保孝訳、白水社)。



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