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『戦後世界経済史』(猪木武徳著)を読みながら(3) [商品世界論ノート]

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このところ少し気が張りすぎているので、軽い雑談調にしましょう。
 戦争はこれまでの世界の枠組みをすっかり変えてしまいます。とくに第二次世界大戦がそうでした。連合国と枢軸国との戦いは、連合国側の勝利に終わり、その後、連合国側、とくにアメリカの意向に沿って、国際秩序が再編されることになります。それにソ連が反発したため、戦後はたちまち「冷戦」と呼ばれる時代を迎えることになりました。しかし、アジアでは大日本帝国の解体と米ソ対決、中華人民共和国の成立を背景として、熱い戦争が勃発するのです。
 本書のテーマである経済面の再編でいうと、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、国際貿易機構(ITO)[関税・貿易一般協定(GATT)を経て現在の世界貿易機構(WTO)]が世界の通貨、国際援助、貿易を調整する機関として成立したことが重要です。アメリカを中心として成立した、その体制が崩れるのは1970年代の初めです。その後、世界は中心なき不安定な変動為替の時代にはいり、現在にいたるグローバルな生き残り競争がはじまります。
 アメリカ中心の「資本主義」体制に対抗しようとしたのが、ソ連を中心とする「社会主義」体制でした。本書を読んで意外に思ったのは、ソ連では科学技術の開発がアメリカより進んでいたことです。それに対し、農業は不振で、食糧不足は常態だったといいます。その原因は農民の働きがいを奪った集団農場制にある、と著者は指摘しています。ソ連がスプートニク打ち上げに成功したことがアメリカにショックを与え、その後アメリカが教育と人材養成に力をそそぐ要因になったというのも面白いですね。
 本書のひとつの特徴は、ヨーロッパの復興に多くのページが割かれていることです。アメリカはソ連を封じ込める意図もあって、マーシャル・プランによってヨーロッパの経済復興を支援します。実際にはドルを供与して、それでアメリカから原料や食糧、機械、燃料を購入させたのですが、それによってヨーロッパが復興の糸口をつかんだのはまちがいないでしょう。マーシャル・プランのもたらしたもうひとつの効果が、欧州統合の動きだったといいます。ずっといがみあっていた国が、アメリカの援助のもと、ともに復興をとげようとしたことが、のちの欧州連合(EU)結成につながっていくわけですね。
 なかでも著者の注目しているのがドイツの復興です。戦後、ドイツは領土を失い、さらに西ドイツと東ドイツに分断されます。社会主義圏にはいった東ドイツでは経済の国有化と集団化がおこなわれ、ドイツ統一までそれが40年以上つづきます。いっぽう西ドイツが国家として発足する直前におこなわれたのが通貨の改革です。新しいドイツ・マルクがつくられ、ナチス時代の通貨ライヒスマルクと1対10の比率で交換されました。
 通貨改革は西ドイツの経済をよみがえらせました。これによって闇市が消え、店に商品があふれ、工場が動き、廃墟にビルが建ちはじめたと、のちに首相となるエアハルトが書いています。われわれはふだん気がつかないけれど、通貨が経済にもたらす影響はすさまじいものがありますね。戦後日本の経済復興と対比しながら、ドイツの経済復興について再考するのは、歴史的にも興味深いテーマです。
 1950年から60年にかけて、西ドイツは8パーセントの経済成長を達成します。その後、成長率は低下し、70年代には高度福祉社会にはいっていきますが、この点も日本と比較してみる必要があります。ドイツ・マルクがドルに対して切り上げられたのは1969年、いっぽう逆にポンドは67年に切り下げられており、こうしたこともブレトンウッズ体制の崩壊を予兆させる出来事となりました。
 戦後の経済史は通貨の興亡史だということもできます。金本位制からドル本位制へ、そして変動通貨制へと通貨の世界は動いていきます。
 マルクスは貨幣の物神性といいました。その口調には、カネを稼ぐことにあくせくするブルジョアをばかにした雰囲気がどこかにただよっています。それはたしかにあたっていなくもないですが、貨幣は幻想にすぎず、そんなものはなくして、働く者がおカネの心配なく安心して暮らせるようにすればいいのだと簡単に結論づけるわけにもいかないようです。
 世界の通貨体制、一国の通貨のあり方は、われわれの毎日の生活に直結しています。通貨(貨幣)がどうあるべきなのかは、戦後経済の最大課題でもありましたが、その課題は現在も持続しているといえるでしょう。

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