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人口と経済成長──ピケティ『21世紀の資本』を読む(3) [本]

 経済の高度成長は、例外的な時期か、キャッチアップがおこなわれているときの現象で、通常、経済成長は低かったと著者は書いています。
 経済成長には人口面と純粋経済面が含まれます。ですから、人口増の分だけしか経済が成長しないとしたら、1人あたりの経済成長はゼロといっていいわけです。
 今世紀になっても、世界の人口は年率1%、経済規模は3%(純粋経済面では2%)の割合で増加しています。
 しかし、18世紀までは、人口の伸びはほぼ0.1%で、経済成長率も同じく0.1%だったと推測されています(ですから、純粋の経済の伸びはゼロ)。
 人口とともに経済が成長しはじめるのは18世紀にはいってからです。19世紀の産業革命期にはいってから、経済成長率は1.5%となりますが、それが3%に急増するのは20世紀になってからです。
 20世紀には人口も大きく増加しました。1700年に6億人だった世界の人口は、1820年には10億人、1913年には18億人、そして2012年には70億人を突破しました。
 現在、ヨーロッパでも日本でも次第に人口増加率は低くなっていますが、アフリカの増加率は高いままです。1913年から2012年にかけての人口増加率は1.4%でした。
 国連予測によると、今後はアフリカをのぞいて、人口は横ばい、または減少に転じ、増加率は次第に0.1〜0.2%に落ちつくだろうと想定されています。
 人口の増加には平等化の作用がある、と著者は書いています。子どもが多く生まれたり、初期の米国のように海外からの移民が増えたりすると、財産相続の意味合いがちいさくなってくるからです。
 これにたいし、経済が成長せず、人口が横ばい、もしくは減少する場合は、相続財産が大きな意味をもち、社会格差を固定する方向にはたらきます。ですから、経済成長と人口動向、相続財産は密接にからんでいるわけですね。
 人口のことを念頭におきながら、次に経済成長についてみていきます。
 18世紀までは、1人あたり産出成長率はゼロでした。それが18世紀には0.1%、19世紀には1.1%、20世紀には1.9%に増加します。
「経済成長が万人にとって目に見える確実な現実となったのは、やっと20世紀になってからだった」と著者は書いています。
 このかん、生産性は上がって、各人の平均労働時間は減りました。いっぽう購買力が増えて、消費者は食品だけではなく、工業製品やサービスなど多様な財を購入できるようになりました。生活の物質条件が、産業革命以来、大きく改善されたことはたしかです。食生活や衣服だけではなく、旅行や学習、医療といった面でも、生活は昔よりずっとよくなった、と著者もいいます。
 先進国では、いまや労働者の7割から8割がサービス部門ではたらいており、20世紀の特徴は、このサービス部門の発展にあるといってもいいくらいです。
 ひと口にサービス部門といっても、それは実に多様な仕事からなっています。著者によると、サービス部門では、その2割が保健医療や教育、別の2割が小売業やホテル、カフェ、レストラン、文化、レジャー産業、別の2割がコンサルティングやデータ処理などの対企業サービス、不動産関連、あるいは銀行、保険などの金融サービス、さらに別の2割が輸送関連など、そして1割が政府や警察、軍、裁判所など、あとの3割はその他の職場で働いています。こうしたサービス部門の広がりをみると、まさに現代の商品世界の構図が描けるような気がしますね。
 地域によって程度のちがいはありますが、保健医療や教育は、かなりの部分が税金でまかなわれています。著者のいうように「保健医療と教育はたぶん、過去2世紀にわたる生活水準改善の中で、最も目に見えるすばらしい改善なのだ」というのは、そのとおりでしょう。
 こうした改善は経済成長の成果です。しかし、これから経済成長はどうなるのでしょう。
 たしかに高度成長は、ある国がほかの国に急速に追いつこうとして起こった移行期の一時的なできごとでした。ですから、高度成長がずっとつづくわけではありません。それはまさに例外的な時代だったのです。
「多くの人々は、成長というのは最低でも年3−4パーセントであるべきだと思っている」が、「これは幻想にすぎない」と著者も指摘しています。炭化水素に代わる新しいエネルギー源が開発されるかどうかにもよりますが、今後の経済成長が1%程度となるのはたしかでしょう。
 しかし、1%の経済成長でも、30年たてばライフスタイルも雇用も激変する、と著者はいいます。それによって、より公平で民主的な社会が到来するかどうかはわかりません。かえって格差が広がることもありえるといいます。
 著者の予想によると、これから富裕国の経済成長率は1%程度に落ち着くとして、中国を含む新興国の成長率は2030年まで3.5%程度を保ち、それ以降は3%以下に下がるとみています。
 世界全体でみると、今後2030年までの成長率は2.5%程度、それ以降はずっと下がって2050年には1.5%程度になっていくのではないかといいます。新興国が金持ち国との差をつめていけるかどうかは、今後の大きな課題です。そのためには、大きな政治的、軍事的衝突が起きないことが前提になります。
 著者はインフレについてもふれています。インフレはとりわけ20世紀特有の現象だったといいます。第2次世界大戦の終わりに、富裕国が巨額の公的債務を処理できたのは、インフレのおかげだったとも述べています(日本もこれからそうなるのでしょうか)。
 通貨の安定していた18世紀、19世紀とちがって、20世紀はインフレによって、金銭的な目安が喪失してしまいました。物価がどんどん上がり、賃金の目安となる額もまるで変わってしまいました。昔、自分がどれだけの賃金をもらっていたかも忘れそうになるほどです(ぼくがはたらきはじめたとき、たしか最初にもらった月給は3万円だったと覚えています)。
「19世紀以来、世界は大幅に変わった」と著者はいいます。その一例が「安定した通貨参照点が20世紀に失われた」ことであり、そのことが、経済や政治だけではなく、社会や文化、文学にも影響をもたらしていると述べています。
 経済、とりわけ富はどう変わったのか。それが次の課題となります。

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