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橋本健二『新・日本の階級社会』をめぐって [時事]

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 日本には新しい階級社会が生まれている。
 1980年ごろから経済格差は徐々に広がり、2012年に日本の貧困層は2050万人にも達した。その原因は非正規労働者が増えたことであり、このことが未婚率の上昇をもたらしている。人びとは大きな格差の存在をはっきりと感じている。それどころではない。

〈現代の日本社会はもはや「格差社会」などという生ぬるい言葉で形容すべきものではない。それは明らかに、「階級社会」なのである。〉

 かつては「一億総中流」という言い方があった。しかし、いまでは「中流意識」が分解し、「中の下」を真ん中にして、「中の上」と「下の上」と「下の下」が増えている。階層意識がはっきり分かれてきているのだ。
 そのいっぽうで「格差拡大肯定・容認論」と「自己責任論」が浸透している。
 著者は2012年のデータにもとづいて、日本の階級構成を次の4つに分類している(就業者人口約6252万人、うち男性3676万人、女性2676万人)。

(1)資本家階級(254万人、4.1%)
(2)新中間階級(1286万人、20.6%)
(3)労働者階級(3906万人、62.5%)
(4)旧中間階級(806万人、12.9%)

 少し説明がいる。

 資本家階級とは、従業者が5人以上の経営者、役員、自営業者。
 新中間階級とは、専門・管理・事務に従事する被雇用者。
 労働者階級とは、専門・管理・事務以外に従事する被雇用者。
 旧中間階級とは、従業者が5人未満の経営者、役員、自営業者。

 を指している。
 最大多数を占める労働者階級は、さらに次のように分類できる。

(a)正規労働者(2193万人、35.1%)
(b)パート主婦(785万人、12.6%)
(c)非正規労働者[パート主婦以外](929万人、14.9%)

 世帯別年収について、ごく大雑把にみると、資本家階級は労働者階級の2倍、新中間階級は1.5倍、旧中間階級はほぼ同じという統計がでている。
 問題は労働者階級の内訳だ。男性でも女性でも、正規と非正規のあいだでは年収で2倍近くの格差がある。世帯年収をとっても、雇用形態が正規と非正規とでは、大きなちがいがある。
 著者はパート主婦を除く非正規労働者が、従来の労働者階級とも異質なひとつの下層階級を構成しはじめていると指摘し、それを「アンダークラス」と名づけている。
 問題はアンダークラスが拡大しつづけていることだ。現時点で、就業者人口の7人に1人がアンダークラスに属している。
 就業者数でみると、アンダークラスは527万人が男性、女性が402万人と、ほかの階級より女性の比率が高い(43.3%)。
 調査によると、その主な職種は、販売店員、総務・企画事務員、料理人、給仕係、清掃員、スーパーなどのレジ係、倉庫夫・仲仕、営業・販売事務員、介護員・ヘルパー、労務作業者などとなる。
 その過半数がフルタイムではたらいており、平均個人年収は186万円。平均世帯年収では343万円とやや高めになるが、世帯の24.1%は200万円以下の所得だ。
 そのためアンダークラスでは貧困率(平均所得の半分以下の割合)が38.7%にのぼり、とくに女性では48.5%に達し、さらに夫と離死別した女性となると63.2%となっている。
 平均資産総額(不動産を含む)は1119万円だが、持ち家がない人は315万円。資産がまったくない人の比率が31.5%を占める。

〈何よりもきわだった特徴は、男性で有配偶者が少なく、女性で離死別者が多いことである。……アンダークラスの男性が結婚して家族を形成することが、いかに困難であるかがよくわかる。……未婚のままアンダークラスであり続けた女性がかなりの数いる一方、既婚女性が夫との離死別を経てアンダークラスに流入してくるようすがうかがえる。〉

 結婚できないアンダークラスが増えているのだ。
 アンダークラスの仕事は、みずから構想して能力を発揮できる種類のものではない。昇進の可能性もほとんどない。退職金もない。健康状態に不安をかかえ、鬱におちいりやすく、孤立におちいりやすい。
 さらに、著者は日本の階級構造が固定される傾向があることを指摘する。つまり父親が資本家階級なら、その子どもも資本家階級に、新中間階級なら新中間階級に、労働者階級なら労働者階級になる割合が高いということだ。ただし、旧中産階級は別で、親の農業や自営業を継ぐ子どもの割合は低くなっている。
 いっぽう、新中間階級から労働者階級に移動する割合は少し増えている。かつては大卒者の多くが新中間階級になることができたが、いまでは就職状況によって、かならずしもそうとはいえなくなった。「いい大学からいい会社へ」という進路はもはや保証されていない、と著者はいう。
 統計によれば、若者は保守化し、排外主義的な傾向を強めているようだ。貧困を自己責任とみなし、所得再分配に反対する若者も多い。また「新中間層と正規労働者は、むしろ貧困層に対して冷淡であり、アンダークラスに対して敵対的であるように思われる」。
 しかし、格差を縮小させ、より平等な社会を実現することが必要だというのが著者の立場だ。
 格差の拡大と階級の固定化が望ましい社会とはとても思えないからだ。また、自己責任論が格差を正当化するイデオロギーなのは言うまでもない。

〈「努力した人が報われる」ことが必要であることはいうまでもない。だから非正規労働者として働くアンダークラスの努力は、報われる必要がある。〉

 賃金格差を縮小し、所得の再分配をはかり、格差を生む原因を解消しなければならない。経済成長や物価上昇率2%を目標とするより、そのことがよほどだいじなのだ。政治の役割は、病んでいる社会を少しでも改善することではないのか。
 著者はこれからの社会は「非階級社会」をめざすべきだという。

〈問題は、階級間に大きな格差があること、そして階級間に障壁があって、階級所属が出身階級によって決まってしまうことである。……[もし格差解消をめざす]諸施策が実現し、これによって階級間の格差が小さなものになり、また自分の所属階級を自由に選ぶ可能性が広がれば、階級というものの意味は、いまよりずっと小さなものになるだろう。〉

 きわめてまっとうな主張である。

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krause

興味深い内容です。早速購入します。
by krause (2018-03-12 18:47) 

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