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アベノミクス、クロダノミクスに終止符を──『バブルの経済理論』をつまみ読み(2) [経済学]

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「デフレと流動性の罠」という章を読んでみる。
 貨幣には価値尺度、交換手段、価値の貯蔵という機能がある。その貨幣は決済手段として用いられると想定されている。
 ケインズは「流動性選好」という概念を打ち立てた。簡単にいってしまえば、流動性選好とは、資産を貨幣のかたちで保有しようとする欲求を指している。
「流動性の罠」とは何か。名目利子率が一定以下に下落すると、中央銀行が供給したベースマネーはそのまま退蔵されてしまい、国債への需要も生まれず、金融政策がきかなくなる。そのため、金融政策による景気回復は不可能となる。これが「流動性の罠」である。
 1999年以来、20年以上にわたって、「ゼロ金利政策」をつづけている日本は「流動性の罠」におちいっている、と著者はみている。
 金利が名目ゼロになった段階で、人びとは資産としての貨幣を保有するようになった。家計と非金融法人企業の現金残高は1995年段階で45兆円程度だったが、それが2017年には109兆円に膨らんでいる。著者の計算では、いまや日本の名目GDPのおよそ11%にあたる60兆円がタンス預金になってしまっているという。
 ここで、むずかしい議論を差し引いていうと、著者は「名目利子率が長期にわたって持続する世界とは、人々が実物資産だけでなくバブル資産を保有するバブル経済なのである」という定式を導きだしている。ぼく流にいうと、バブルとはおカネが実物に向かうのではなく、おカネがおカネ自体の膨張を目的とする経済現象である。
 日本経済がバブル経済だとすれば1980年代の資産バブルと1990年代以降のデフレはつながっている。バブルが崩壊しても、利子率が成長率を下回るとバブル経済は残る。その結果、貨幣が退蔵されて、デフレがつづくことになる。金利をゼロにしたからこそ、デフレが起こるという一見意外な結論を著者は導きだしている。
 名目金利がゼロになると、人々は債権と実物資本だけではなく貨幣をも資産として選ぶようになる。すると、それは物価を押し下げる力としてはたらき、デフレをもたらす。
 アメリカの場合はFFレート(連邦準備制度理事会による政策金利)がほぼゼロに据え置かれたにもかかわらず、インフレ率は2%に保たれた。その理由は、当局者がこの政策を無期限に実施するつもりはないと表明しつづけたためだという。
 アメリカ経済は2013年1月にリーマン危機以前の水準を回復した。しかし、その後も雇用回復を重視して、ゼロ金利は維持された。2015年にはニューヨークの株式市場が新高値を更新し、連邦準備制度理事会は7年間におよぶゼロ金利の解除を発表した。市場もまたゼロ金利政策はあくまでも短期だと認識していた。そのかん、アメリカはデフレにおちいらなかった。
 日本では2013年4月に黒田東彦が日銀総裁に就任し、大規模な量的緩和を実施し、2年でインフレ率を2%にすると宣言した。
しかし、出口戦略については、いっさい触れなかった。それは一種の賭けだった、と著者はいう。
 ゼロ金利のもとで、金融緩和をつづければ、投資は拡大し、景気が拡大して、物価は上昇すると考えられていた。だが、そのもくろみは、みごとに失敗する。経済はデフレを脱却できず、長期停滞におちいった。
 人々はインフレ率2%という目標より、ゼロ金利がつづくという展望を信じた。そのため貨幣需要が強まり、デフレがさらにつづくことになった。

〈出口を明示しないまま時間のみが経過すると、人々は名目利子率ゼロが長期化すると予想して、貨幣を保有し続け、決して手放さない。そして経済はデフレに逆戻りしてしまう。〉

 インフレ目標が達成されないため、日銀は2015年1月から日銀が金融機関から預かる当座預金にマイナス金利を導入することに決めた。それによって総支出の上昇をはかったのだが、それは逆に信用の収縮を招き、銀行の経営基盤を弱体化することになった。
 預金金利がすでにゼロ下限に達しているとき、貸出金利が下がりつづけると、利ざやは縮小され、銀行の経営を圧迫する。
 マイナス金利の導入は、金融緩和政策がこれからも長期的につづくことを予想させ、経済はますますデフレ傾向におちいった。
 金融緩和政策はさらにずるずるとつづく。その結果、日本経済はついに国の発行した国債を中央銀行が引き受ける、事実上の財政ファイナンス状態となった。
 日本の名目GDPの水準はこの20年間ほとんど変わっていない。これは世界で日本だけだという。
 国内財における生産性向上の努力が価格を下げ、かえってデフレを進行させている面も否定できない(賃金も低く抑えられる)。
 日銀は量的金融緩和によって、2012年から17年にかけ、ベースマネーを147兆円から502兆円に増やした。しかし、そのかん2012年に500兆円ちょうどだった名目GDPは2017年には545兆円へと9%しか増えなかった。したがって異次元の金融緩和はGDPの増加とあまり結びつかなかったといえる。
 ベースマネーが急速に増加したのは、日銀が市場から大量に国債を購入したためである。国債の購入によってベースマネーが増えても、それはGDPの増加にはさほどつながらなかった。
 金融緩和の目的は実質利子率を引き下げて、経済活動を刺激することである。ところが現実はそうなっていない。それはどうしてか。
 銀行は名目利子率がゼロになっても預金金利をマイナスにすることはできないので、利ざやが縮小され、そのため経営が圧迫される。そのため、貸し出しはかえって減ってしまう。
 さらに、名目利子率がゼロになると、バブル資産としての貨幣が求められ、タンス預金が増えていく。「逆説的なことに、ゼロ金利の長期化は、金融政策の本来の意図とは真逆に働く力を取り込むこととなり、金融政策からその有効性を奪ってしまう」
 いまや日本経済の海図なき航海はいつ難破してもおかしくない、とまで著者は述べている。
 ここで著者が提案するのが、ゼロ金利を解除して、名目利子率を引き上げる出口戦略である。具体的には中央銀行が売りオペを実施して、国債を市場に供給し、貨幣を回収する。利上げをすれば、国債の利払い費が増えるため、新企国債の増発が必要となる。純政府債務が増加するため、物価もまた上昇する。タンス預金のうまみはなくなって、人々は貨幣を手放すから、余剰資金が生まれ、実質利子率は押し下げられる。荒唐無稽のようにみえて、これは意外と実効性がある、と著者はいう。
 ただし、こうした出口戦略は慎重を要する。まずは金利正常化に向けて舵を切ると宣言することがだいじである。実際にはゼロ金利をしばらく維持したまま、タンス預金を銀行預金に移行させることを先行させるべきだという。そして、インフレ期待が形成された段階で、利上げをおこなう。具体的には400兆円を超える国債を売りオペで市場に売却する。
 現在の日銀の政策はケインズ・モデルにもとづいた、近視眼的な景気刺激策にすぎない、と著者はいう。

〈それと引き換えに失ったのは、自律性を欠いた金融政策、財政への信頼の喪失、低金利経済がもたらす将来不安、米ドル依存体質の継続である。さらにつけ加えるなら、需要不足信仰による景気刺激策は、市場規律を弱め、日本経済の足腰を弱体化させた。〉

 アベノミクス、クロダノミクスに終止符を。いまこそゼロ金利政策を転換するとともに財政規律を回復し、円の国際化をはからねばならない。直感とはまったく逆に、利上げこそが景気を回復させ、成長を促進するというのが著者の主張である。

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