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三浦展『大下流国家』『永続孤独社会』 を読む(1) [時事]

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 最近はすっかり隠居生活なので、世の中に疎くなっている。フェイスブックで知り合いになっている三浦展(あつし)さんの新書を2冊読んでみることにした。それにしても、次々と本を出しつづける三浦さんのパワーには驚く。わたしの知るのはそのごく一端にすぎない。
『大下流社会』のサブタイトルは「オワコン日本」の現在地となっている。
 そもそもオワコンという言い方を知らなかった。終わったコンテンツをさすのだという。いま日本はオワコン状態にはいり、大半の人が日本の繁栄の時代は終わっていると感じている。とはいえ、自民党支持者のなかでは、そのことを認めない人も多いという。
 国連の人口予測によると、2060年の日本の人口予測は約9833万人。2020年の1億2648万人からかなり減って、その順位は現在の世界11位から20位に落ちると予測されている。もっと厳しい見方をする推計もある。
 すると、とうぜん国内需要も減って、現在のGDP世界3位からも転落している可能性が高い。
 世界からみて、日本はだんだん遅れた国になりつつある。論文数ランキングも落ち、留学生の数も減り、ジェンダーギャップはむしろ広がり、国連の幸福度調査も世界56位に甘んじ、報道自由度ランキングは180カ国中67位、子どもの学力も伸び悩んでいる。
 経済大国だった日本が「大下流国家」になろうとしているという。
 消費格差も進む。中流商品が売れなくなり、商品は上流向けと下流向けに二極化した。それはシャンプーからパン、ヨーグルトなどの食品、スーツを含む衣料品、自動車におよぶ。
 上流はたしかに存在する。しかし、それよりも中流の下流化が進んでいる。
 ところが、不思議なことに、内閣府の階層意識調査では、2011年から20年の10年のあいだに、日本ではわずかながらも上流意識(13%から17%)が増え、下層意識(12%から10%)が減っている。まだまだ中流意識が強い。
 いったいどういうことだろう。
 正規雇用公務員の上流意識は高まっている。これにたいし、45〜54歳男性のパート・派遣は下流意識が82%となっている。そのあいだが、いわば「中流」だが、著者によると、この10年の特徴は「年収が500万円なくても、400万円前後でも中流であるという意識の変容が起こった」ことだという。
 ちなみに、男性の年間平均給与額は1997年の577万7000円をピークに下がりつづけ、2013年から回復して、2019年にようやく539万7000円まで戻った。
 バブル崩壊後、日本人は貧しくなった。そのなかでデフレが進行し、安く暮らせるようになったことが、給料が少なくなっても中流だという「ニセ中流」意識を生んだという。
 二人以上世帯の消費支出は2000年の380万円7937円が2019年の352万547円と低下している。そのかんエンゲル係数は上昇した。しかし、日本人はそれほど生活に不満を感じていない。
 コンビニやマクドナルド、ケンタッキー、丸亀うどんなどもあり、食べるものには不自由しないからだ。着るものもユニクロどころか、GU、ワークマンでじゅうぶんだ。メルカリやヤフオクで中古品を安く買える。映画や音楽もネット配信を利用すればいい。
 じっさいは下流化しているのに、自分は中流と思いこむ「ニセ中流」が増えている。それが下流意識が減った(自分はいまでも中流と思い込んでいる)ことを示す統計の数字になって現れている。
 2008年から2019年にかけてはリーマンショック後のデフレ時代だったにもかかわらず、生活満足度における日本人の不満の度合いは下がった(内閣府の調査では「まだまだ不満」、「きわめて不満だ」が、2008年には併せて38.4%だったのに、2019年には25%になっている)。
 給料は上がらないが、物価も下がったからである。下流なれしたのかもしれない。公害や住宅難、石油ショック、リーマン・ショックなどのあった高度成長期やバブル期のほうが、ずっと日本人の不満度は高かった。
 いまは、とりわけ不満を抱く20代男性の割合が低くなった。逆に女性は社会進出が進んだために、不満をもつことが多くなっているという。
 著者によると、2011年から20年までの10年間で、20〜30代の年収300万〜400万台の満足度が増加しているという。つまり、「中の下」の満足度が上昇している。仕事があって、親子そろって楽しく食事ができればじゅうぶんという人が増えている。
 田舎志向、人間関係志向、シンプル志向、エコ志向、ていねいな生活志向も増えているという。ブログの発信・書き込みをしたり、民泊をしたり、友達を多くつくったり、ものを増やさない生活をしたり、ルームシェアをしたり、クールビズを実践したり、エコバッグを持参したり、長く使える商品を購入したりといったことが、それなりに満足度を高めている。
 自分の生活が「快適」で「愛」を感じられ、「平和」であればいいといった個人志向も強くなっている。それは家庭生活において、もっとも求められていることだ。
 著者自身、「戦後日本社会の最大の価値はまさに社会の平和を実現、維持したことである」と指摘している。
 いっぽう、「世の中をよくする」ことへの関心はますます薄れている。何もかも政治家まかせというわけではないが、やっかいごとは避けるきらいがある。。
 個人の問題にたいする関心は大きい。社会保障の将来に不安をもち、貧富の差が拡大していることを懸念し、ネット上の誹謗中傷やブラック企業に憤り、教育にお金がかかりすぎることを疑問に思っている。
 競争主義や成果主義、新自由主義的な価値観には抵抗があり、グローバル化や外国人の増加には積極的ではなく、まじめに働く人がむくわれるべきだと考える人が多い。
 それでも、あまり挑戦的ではない生き方が浮かび上がる。これを保守化というのだろうか。
 階層意識でみると、「下流」や「中の下」の人は、多くが毎日を生きるのが精一杯で、貧富の差が拡大している、ブラック企業が多い、年金・医療費など社会保障が心配と感じている。
 いっぽう上流意識をもつ人は、生活保護が行きすぎだ、対中国・北朝鮮・韓国政策が軟弱だ、日本人はのんびりしすぎている、正規雇用されない人は能力や性格に問題がある、強力な政治的リーダーが必要だ、テレビがばかばかしい、新聞は信用できないなどと感じている。

 著者は第2次安倍政権(2012〜20年)の評価について独自の調査をおこなっている(これは本書が出版された2021年段階の評価である)。
 日本の下流社会化を促進したのは安倍政権だ、と著者は断言する。
 しかし、全体の傾向として、安倍政権を「評価する」は約40%、「評価しない」は約32%だった。男女差はあまりないが、男性にくらべ女性のほうが、評価する割合は低い。
 それほど強く支持されていたわけではないが、かといって反対が圧倒的だったわけでもない。
 若い世代は自民党支持が多いといわれるが、じっさいには「どちらでもない」が多く、「評価しない」が少ない。25〜34歳の男性の単独世帯は「まあ評価する」が多く、25〜34歳のシングルマザー世帯は「評価する」はきわめて少ない。
 学歴別にみると、男性の高学歴者ほど安倍政権にたいする評価は高く、逆に女性の高学歴者は「評価する」が少なくなっている。
収入別でいうと、高収入の男性ほど安倍政権にたいする評価は高く、不思議なことに高収入の女性は「評価する」が減っている。
 年齢別にみると、若い男性で高収入の人は安倍政権への評価が高い。しかし、低収入の人になると、「評価しない」が多くなる。
 年収200万円未満の人は35歳〜44歳の男性では「評価しない」が44%、同じく45歳〜54歳の男性では「評価しない」が45%になる。
 要するに、高収入の人ほど評価は高くなり、低収入の人ほど評価は低くなる。また、この15年間で「豊かになった」と感じる人ほど評価は高く、「貧しくなった」と感じる人ほど評価は低い。
 パート・派遣の人や離別女性の安倍政権評価は低く、専業主婦にも思ったより人気がない。
 階層意識が「上」になるほど安倍政権への評価が高いのは、それが自民党支持層と重なっているからだろう。これにたいし、階層が低くなると評価も相対的に低くなるが、アンケートでは下流の人でも、「評価しない」傾向が39%なのに「評価する」が35%と拮抗している。
 著者によると、階層意識が「上」でも3割弱、安倍政権を評価しない人がいるが、これはインテリ層、リベラル層だという。いっぽう、階層が「中の下」や「下」なのに評価する人は、中年男性が多く、二流大学卒でボンボンというところに何となく親しみを感じているようだという。
 儲け志向の人は安倍政権を評価し、正義志向の人は評価しない傾向がある。しかし、いまの日本では「世の中をよくする」という志向はますます弱まっており、社会主義はとっくに過去のイデオロギーとなり、新自由主義的な価値観に適応することだけが求められているのが現実だという。
 社会志向よりも個人志向が強まっている。社会への関心は薄れ、歴史は忘れられ、そこにネトウヨの言論がはいりこむ。ポピュリズムは好きだが、民主主義は好きではないという人が増えているのではないか、と著者は懸念する。
 しかし、安倍政権の支持者が反知性主義的かというと、かならずしもそうではないという。たくさん本を読んでいる人も多い。けれども、それはどちらかというと経済書や実務書、技術書、小説などで、いわゆる人文書やジャーナリズム関係の本は少ない。
「若い世代の安倍支持・自民支持の多さは新聞を読まないからだ」と著者は断言する。書籍やマンガをスマホで閲覧し、SNSを積極的に利用し、ネットニュースをよく見る若者ほど自民支持の傾向が強いという。
 ブランド品など高級品志向の強い人が安倍政権を評価するのはとうぜんかもしれない。タワーマンションに住み、フィットネスクラブに通い、容姿に気を遣い、経済・ビジネス書を読むタイプの人は概して安倍政権を支持していた。
 安倍政権を支持するのは、愛国心や軍事力、強い外交、強力なリーダーシップを重視し、日本志向、排外的傾向が強いグループである。むしろ中流や下流の中年男性のなかに、そうした安倍支持者が多い。
 上流・中流が安倍政権を評価するのは、主にアベノミクスと安倍外交にたいしてである。「中の下」を含む下流は、従来からのしきたりや保守性、反共意識、見た目のよさなどから安倍政権を支持しているという。
 しかし、下流の中年男性は基本的には安倍政権を評価していない。経済的格差の拡大が、中年男性の評価を二極化していたという。
 これにたいし、中流の人の「どちらでもない」派は、無党派層で政治にはさほど関心がない。別に安倍政権でもかまわないと思っていた。
 さらに著者は「そもそも現在の若者は自民党を保守と思わず、共産党を保守と思い、維新を革新と思うのだという」とも書いている。
 安倍政権とは何だったのかを問う時期がきている。本書がそうしたきっかけを与えてくれることはまちがいない。


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